隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

明日の僕に風が吹く

乾ルカ氏の明日の僕に風が吹くを読んだ。

川嶋有人は中学生時代に昼休みに遊んでいて急に倒れてしまった同級生の女子を助けようとしてのだが、全く何もできず、彼女の吐いた吐瀉物を見て、自分も吐いてしまった。その女子は食物アレルギーがあり、その発作だったのだが、そんなことは有人にはわからず、ただ憧れていた医師の叔父のように困っている人を助けたいと思っての行動だったが、役立たずだった有人はバカれにされて、孤立してしまい、そして登校拒否になってしまった。それから2年、引きこもりの生活が続き、有人は16歳になっていた。そんな有人を心配した叔父は、北海道の離島・照羽尻島にある高校に進学することを半ば強引に勧めた。照羽尻高校は少子化により生徒数が減少しており、島外からの生徒を留学生として受け入れる制度があったのだ。有人の叔父は照羽尻島の診療所に医師として勤めており、なんとか高校に合格した勇人は叔父と一緒に暮らすことになった。環境が変わっても、高校に通えるものでもなく、引きこもりの延長のような生活をしていたのだが、叔父から診療所の雑用をするように言われ、少しずつ外の世界に出ていくようになっていくのだった。

照羽尻高校は離島にある高校なので、生徒数が本当に少なく、有人を含めても5人しかいない。1年生三人、2年生二人。そして、5人のうち3人が島外出身者だった。島外からくるということは、それなりの理由があるのだが、それは徐々に物語で明らかになっていく。

天気と過去は変えられない

本作に登場する漁師の言葉だ。でも、「過去をどう思うかってのは変えられる」というのが対になる言葉で、その息子である有人の同級生言葉だ。有人はあまりにもナイーブで繊細なので、他人の言葉や態度にストレートに一喜一憂してしまい、前向きにもなれるが、急に落ち込んで何もかも嫌になってしまうような性格なのだ。そんな有人がこの島で過ごしていくうちに過去を見つめて、進むべき前を考えられるなるまでを描く、王道の青春小説だろう。この著者は以前はちょっと不思議な物語を書いていたという印象がるのだが、どうも最近は青春小説を何冊か書いているようで、作風が変わったのだろうか?

本書の最後の方に、

前に進むときに感じるのは、必ず向かい風だ。

という言葉があり、それはタイトルの「明日の僕に風が吹く」に繋がっているのだろう。