隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

からころも 万葉集歌解き譚

篠綾子氏のからころも 万葉集歌解き譚を読んだ。朝日新聞の書評のページにこの本が紹介されていた。

book.asahi.com

(2)の舞台は江戸日本橋。失踪した薬種問屋の手代が日記に残した『万葉集』ゆかりの和歌が、思いがけぬ謎解きの鍵となる。父の行方を求める小僧の助松を通じ、『万葉集』や江戸狂歌についても学べる一冊。

と書かれていたので、「和歌をある種の暗号的に使ったミステリーなのかな?」と思って、読んだのだが、そういう感じではなかった。この小説はジャンルとしてはミステリー的な要素がある時代小説で、ストーリーに色々な和歌が出てくるという感じだ。薬種問屋の手代大五郎が富山にある薬の仕入れ先である丹波屋を訪ねて出かけていった。富山では丹波屋の手代と薬となる薬草を探しに山に入ったのだが、行方知れずになってしまったという。大五郎には捨松という十歳になる子供がいて、富山に出かける前に、一冊の帳面を預け、「決してなくすな、そして、誰にも帳面の事は言ってはならない」言い残していた。捨松は大五郎が行方不明になったので、大五郎の奉公先の薬種問屋に小僧として引き取られることになった。捨松は父の大五郎が死んだとは思っておらず、必ず帰ってくると信じているのだった。

和歌は大五郎が遺していった冊子に書かれていて、その和歌の意味するところを解いていくのが葛城多陽人なのだ。どうやら、この小説はシリーズ物の一作目で、葛城多陽人という陰陽師が主人公のようだ。彼は和歌に詳しく、不思議な術を使うという設定になっている。そして、大五郎失踪の裏には、複雑な事件が隠されているというストーリになっている。だが、大五郎がなぜ冊子に和歌を書き残したのかについては、特段触れることもなく物語は終わってしまった。それと、この小説中に和歌は割と頻繁に登場し、なにかミュージカル映画のような感じで和歌が登場してくるという印象を受けた。別に登場人物が歌うわけではないのだが、いきなりストーリーに和歌が割り込んできている印象を受けるのだ。これは完全に好みの問題だろうが、それが妙な違和感と感じた。今後続巻が出るのだろうが、今回のストーリーは一応決着しているので、続きを読むかどうかは本が出てから考えよう。