隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

果てしなき輝きの果てに

リズ・ムーアの果てしなき輝きの果てに(原題 LONG BRIGHT RIVER)を読んだ。この作品は北上ラジオの第18回で紹介されていた。

小説を読む醍醐味がつまった『果てしなき輝きの果てに』リズ・ムーア(早川書房)を寝食忘れて一気読みだ! - YouTube

ハヤカワポケットミステリーなので、長い小説だ。480ページで、しかも上下2段組。なので、読み始める前は、読み終えるまでどれぐらい時間がかかるのかと思った。しかも扱っている内容が結構重いのだ。舞台はアメリカのフィラデルフィアで、治安が良くなく、麻薬の取引が日常的に行われているケンジントンというエリア。主人公はパトロール警官のミッキー。彼女がパトロール中に女性の遺体が発見されたという無線連絡を受け、現場に向かうところから物語は始まる。最初は薬物の過剰摂取が疑われたが、首を絞められた跡が見つかり、殺人事件の捜査が始まる。そして、その後複数の女性の遺体が発見され、連続殺人事件へと発展していくのが、この物語のミステリーの部分だ。しかし、純粋なミステリーというよりも、主人公が警察官であることから想像できるように、この作品はどちらかというと警察小説だろう。誰が犯人かというのを理詰めで解いていくというよりは、事件に深くかかわりながら犯人に辿り着くという感じだ。

この小説は人間関係が複雑で、かなりこじれている。ミッキーはシングルマザーで4歳の息子トーマスを育てている。この二人の関係も単純ではないし、トーマスの父親が誰かというのもなかなかわからない。ミッキーは女性の遺体が発見されるたびに、妹のケイシーではないかと心配している。というのもケイシーは薬物に溺れ、売春の客引きのようなことをしていて、何度か逮捕もされている。ここ1~2か月の間ケイシーの姿が見えないので、ミッキーはケイシーの行方を探し始めるのだが、誰に聞いても行方がわからないのだ。今や捕まえる側と捕まえられる側に別れていてるが、子どもの頃は仲の良い姉妹だった。二人の間には何か複雑なことがありそうなのだが、それもなかなか明らかにならない。二人の母親は子供の頃に薬物中毒で亡くなっていて、祖母が二人を育てたのだが、始終二人の父親のことを悪く言っていた。父親とは音信不通で、ミッキーはもうすでに死んだと思っている。などなど。この物語は、連続殺人事件という表側の謎が主題としてあるのだが、もう一つのテーマはこのミッキーとケイシーの一族がどうして今のようになったのかという裏側の謎があるのだ。ストリーは現在の視点で表側の謎を辿りながら、過去の回想を通して裏側の謎が明かされていく。

さて、長いストーリーだったが、意外とスラスラ読めた。扱っている内容が、麻薬だけでなく、悪徳警官、貧困とかシングルマザーの困難さ、教育への無理解、姉妹愛など、単にミステリー(警察小説)以上の広がりを見せているので、単なるミステリーではなく、面白く読めたのだと思う。日本語のタイトルが表すように物語の最後には希望が見えるような(だが、完全な明るい未来ではない)終わり方になっているのが、せめてもの救いだろう。