隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

君に読ませたいミステリがあるんだ

東川篤哉氏の君に読ませたいミステリがあるんだを読んだ。三度目の恋ヶ窪学園を舞台にしたミステリーだ。だが、今回は探偵部ではなく、第二文芸部が舞台になっている。第二文芸部とは何か?実践的な活動を本分とし、最終的にはプロとして作家デビューをすることを目指す本格的な創作集団というのが第二文芸部部長の水崎アンナの説明だ。しかし、第二文芸部の部室は恋ヶ窪学園の北側にあり、立ち並ぶ校舎の裏側で、一日24時間のうち22時間は夜か日陰という立地にあるプレハブなのだ。この辺りで第二文芸部がどういう扱いなのかが想像がつくようになっている。恋ヶ窪学園に入学した僕は間違ってその第二文芸部に迷い込んでしまったのだった。水崎部長は「君に読ませたいミステリがあるんだ」と言って僕にミステリーを読ませる。

本書は短編集で、「文芸部長と『音楽室の殺人』」、「文芸部長と『狙われた送球部員』」、「文芸部長と『消えた制服女子の謎』」、「文芸部長と『砲丸投げの恐怖』」、「文芸部長と『エックス山のアリバイ』」の5編が収録されている。事件が起きるのは小説内小説という設定で、その小説を書いたのが部長の水崎アンナなのだ。そして、水崎アンナがひどいミステリーを書いて、僕が突っ込むという構造がすべてに共通しているのだが、「文芸部長と『音楽室の殺人』」はあまりにもひどい。敢えてひどいミステリーを書いたという設定なのはもちろんその通りなのだが、こんな調子で全ての短編がひどいものだったら、目も当てられないなぁと思いながら読み進めると、2作目、3作目とだんだんまともになっていく。そして、5作全体を通してある仕掛けが施されているということが、最後で分かるようになっている。

また、新しい恋ヶ窪学園シリーズが始まるのかと思ったのだが、水崎アンナは三年生なので最後で卒業してしまう。だから、今回のパターンでこの小説は続けられない。時間が前に戻し、僕が入学する前の話で続けるか、僕が新たな部長となってシリーズが続けるのか、或いはこのシリーズは続かないのか?。下のインタビューを読むと続かないような気がしてきた。

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