隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

戦場のコックたち

深緑野分氏の戦場のコックたちを読んだ。この本は単行本が出版されたときに、確か本の雑誌でも取り上げられていて、おもしろそうだと思った記憶があり、読もうと思った記憶もあるのだが、今まで読んでいなかった。すっかり忘れていたのだ。単行本の出版が2015年だから、5年も経過している。

ルイジアナ州の片田舎で育ったティモシー・コールが第二次世界大戦に従軍し、空挺師団のパラシュート降下隊に属し、いわゆるノルマンディー上陸作戦に参加する。彼は訓練期間中にエドワードにコック兵に誘われ、五等特技兵としての顔をもつ。戦闘に参加しながら、食事の準備もすると言う、大変な役割を担っているのだが、兵隊の中ではコック兵はあまり重くは見られていない。この物語は彼らがフランス上陸からドイツ降伏までの期間に戦場で出くわした一見すると不思議な出来事を題材にした日常のミステリーだ。ミステリーとしては5編収録されている。

この本ももっと早く読んでおくべきだったというのが、読後の率直な感想だ。この小説は単なるミステリーという枠でくくるのはもったいないと思えるぐらい、アメリ空挺部隊やコック兵に関しての記述が面白い。巻末に大量の参考文献が書かれているが、著者が元々軍隊に関して詳しかったのか、この小説を書くために調べたのかはわからないが、すごく詳しく書かれている。本書を読む前は、コック兵というのはどちらかというと後方支援なのだろうと思っていたのだが、そうではなく、彼らも前線に出て戦っており、本書の中ではそれは戦争の矛盾という形になって現れ、ティモシー・コールに降りかかっていく。当然ながら、後半に向かっていくほどその矛盾は大きくなっていくのだ。だからこそ、この小説が単なるミステリーだとは思えないと感じたのだ。