隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

どうかこの声が、あなたに届きますように

浅葉なつ氏の「どうかこの声が、あなたに届きますように」を読んだ。

この本は北上ラジオ第20回で紹介されていた。
構成よし! 人物造形よし!! 素晴らしい小説を見つけたぞ!!!(一年遅れで…)『どうかこの声が、あなたに届きますように』浅葉なつ(文春文庫)がおすすめだ!! - YouTube

主人公は元地下アイドルの小松夏海。ある事情で、アイドルを続けられなくなり、引きこもりのような生活から何とか脱して、パン屋でアルバイトをしていたところに現れたのが東文放送というラジオ局の黒木というディレクターだった。そして、番組アシスタントのオーディションをするから受けないかと誘いを受けた。それから少しづつラジオパーソナリティとして成長していく小松夏海の物語だ。

この小説は構成が面白い。主人公は明らかに小松夏海なのだが、オープニングの次の第一章であるTALK#01が井澤春奈になっていて、小松夏海はラジオのアシスタントとして初めて番組出演するという体で登場する。小松夏海は井澤春奈にとってはラジオの中の人なのだ。で、第二章では小松奈々子になり、これは小松夏海の本名だ。ディレクターの黒崎にスカウトされてラジオのおでぃしょんを受ける話。で、井澤春奈はもう登場しないのかと思うと、後半の方でまた登場する。そして、第三章の岡本英明もメインは夏海ではなく、岡本が夏海のラジオに救われている話で、岡本も後半の方で登場することになる。ラジオを挟んでこちら側と向こう側を表現することで、物語に遠近感とか、奥行きのようなものを与えている。

だが、ストーリーの中のクライマックスはもけもけ太郎のエピソードだろう。ラジオで何でも褒めます的なコーナは確かにあって聞いたこともあるが、こういう形でストーリーに組み込まれると、こういうコーナも意味があると思った。