隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

飼いならす――世界を変えた10種の動植物

アリス・ロバーツの飼いならす――世界を変えた10種の動植物(原題 Tamed: The species that changed our world)を読んだ。

ある種反穀物の人類史――国家誕生のディープヒストリー - 隠居日録コロンブスの不平等交換 作物・奴隷・疫病の世界史 - 隠居日録にも通じるところがある内容だが、人類が今までに家畜化したり作物化した動植物に関する考察だ。これらに関しては、DNAの解析により以前から比べると随分いろいろなことがわかってきたという印象を持っているが、この本は最新の知見も織り交ぜた集大成のような本で、10種の動植物に関して考察している。その中に、ヒトも含まれているのはご愛嬌といったところか。

イヌ

アイルランドのニューグレン時にある新石器時代の遺跡から発掘された5000年前のイヌについて徹底的にゲノム解析され、このほかの古代の59体のイヌのミトコンドリアDNAも解読された。その結果、新石器時代のニューグレンジのイヌの遺伝子は現代の犬の物とよく似ていた。また、東アジアのイヌとヨーロッパや中東のイヌの間には遺伝的に断絶があることも分かった。ニューグレンジのイヌのゲノムはユーラシア大陸の西部のイヌの物と一番よく一致していたが、ミトコンドリアDNAからは太古のヨーロッパのイヌの大半は現代ヨーロッパのイヌとは異なる遺伝標識を持っていた。太古のヨーロッパのイヌが東から押し寄せたイヌにほぼとってかわられたか、交雑したと考えられている。

コムギ

現生の小麦は穂軸から種子が脱落しにくくなっているが、古代の野生のコムギは脱落しやすくなっていて、これはヒトがそのようなものを選んで栽培したからだというような話を聞いたことがある。しかし、この本を読んで、それはあくまでも結果なのだというように感じた。つまり、栽培場所から移動したときに、移動できたものは穂軸に種子が保たれたままのものが残るはずで、それを再度植えれば、図らずも、その特徴が選択されることになってしまうだろうということだ

バルカン半島中央部にある11の遺跡が調査された結果、ウシの骨の分析の結果、時代とともに成体の割合が増えていることが分かった。新石器時代はウシの骨の成体は25%程度で、肉のためにウシを育てていたことが推測される。しかし、紀元前2500年ごろの青銅器時代の遺跡では、ウシの骨の50%が成体の物で、乳などの副産物や労働力が重要になっていたことが考えられる。ヒツジでも同じ傾向がみられるが、バルカン半島の調査では、ヤギの骨は別な傾向がみられた。始めから成体の骨が多く、ヤギの乳を飲んでいたことが推測される。だが、別な遺跡の調査では、ウシのチーズが新石器時代の壺から発見されており、始めから乳を利用していたこともわかっている。

ジャガイモ

南米チリのモンテ・ベルデという遺跡から太古の野生のジャガイモの遺物が発見されており、16400年前には既にジャガイモを食べていたことがわかっているが、ヒトは昔から地中にある塊を食べていたのかもしれない。ヒト族が化石に現れ始めると、骨格が二足歩行に適応していくとともに、歯にも変化が現れたことが記録されている。祖先に比べ、エナメル質が厚くなり、臼歯が大きくなったのだ。他の霊長類では、歯の形は日常的に食べていたものではなく、窮乏時の救荒食物と関係があるように見え、それがヒト族の歯の変化にも適応できるとすると、根茎、球茎、麟茎、塊茎などの植物に頼っていたのかもしれない。サバンナにはこのような植物が多くある。

ニワトリ

大半のニワトリは成長が速く、生まれてからわずか6週で屠畜されるというから驚きだ。そして、その数は年間600億羽だというからさらに驚きなのだが、これは1945年にアメリカで転機が訪れたためで、昔からニワトリを大量消費していたわけではないらしい。ニワトリのブリーダーに卵だけでなく、肉にも注意を向けさせるためのコンテストがアメリカで行われ、その結果なのだという。

リンゴ

リンゴの原産地は新疆ウイグル自治区のジュンガリアという地域だと書いてある。エデンの園にあった果実もリンゴと呼ばれているが、パレスチナの温暖な気候に合うリンゴは最近になって開発されたので、当時はなかったはずだ。また、禁断の果実は「tappuah」と記されており、この言葉にリンゴという意味はないと本書では書かれているが、Tappuah - Wikipediaにはリンゴの意味があると書かれていて、どっちが本当なのだかわからなくなってしまう。