隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

影を呑んだ少女

フランシス・ハーディングの影を呑んだ少女 (原題 A SKINFUL OF SHADOWS)を読んだ。

本物語の主人公はメイクピースという名の少女で、母親と一緒にロンドン近郊のポプラの町におじ・おばの所に居候していた。ある日母と一緒にロンドンに行ったときに暴動に巻き込まれ、母親は命を落とした。母親は未婚であったために教会内の墓地には埋葬されず、町の湿地のへりにある聖別されていない土地に埋葬された。そして、残されたメイクピースは厄介払いされるようにグライズヘイズにあるフェルモント家に引き取られることになった。なぜなら、メイクピースにはフェルモント一族の血が流れており特殊な能力があったからだ。それは、幽霊を、死者の魂を体の中にとどめておける特殊な能力だ。フェルモント一族は先祖の幽霊を体にとどめておくことで、力をふるっており、王にも影響力を及ぼしていた。一族の者はメイクピースを予備の幽霊の入れ物として手元に置いておくことにしたのだった。

巻末の訳者あとがきによると、作者が物語の時代をこの時期にした理由を以下のように述べている。

内乱の時代は英国史上一、二を争うほどの激動の時代であり、フェルモット家の伝統という古く強大なものにたちむかう主人公を描くのに、かってない大きな変動があったこの時代がぴったりはまったのだ。

従来的な価値観の延長で考えるなら、メイクピースは貴族に言われたとおりに予備の入れ物としての立場を受け入れてしまったのだろうが、それでは物語は動かない。だから、価値観が逆転してしまうようなこの時代に物語を設定することで、運命にあらがう主人公に説得力を与えたのだろう。物語の主眼はメイクピースがいかにグライズヘイズのフェルモント家から逃れるかに移っていくのだが、そう簡単には逃げられないようになっているのだ。だが、メイクピースも孤立無援というわけではなく、グライズヘイズには母親違いの兄ジェイムズがいたのだった。最もメイクピースもジェイムズを100%信じてよいのかどうかわからないのではあるが……。

日本語では清教徒革命とかピューリタン革命とか呼ばれている時代が物語の舞台になっているが、英語では Wars of Three KingdomsとかBritish Civil Warsと呼ばれていることは初めて知った。アメリカの南北戦争も英語ではAmerical Civil Warと呼ばれていて、イギリスにもCivil Warと呼ばれているものがあったのかとちょっと驚いた。というのも、Civil Warという言葉の並びは、大文字にしているとしても、元の意味は市民戦争だろう。あまりにも安直なネーミングだと感じた。