隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

江戸染まぬ

青山文平氏の江戸染まぬを読んだ。本書は短編集で、「次々の小袖」、「町になかったもの」、「剣士」、「いたずら書き」、「江戸染まぬ」、「日和山」、「台」の七編が収録されている。

よくわからぬという感想を抱いたものが何篇かある。「いたずら書き」と「日和山」で、特に「日和山」。部屋住みの武家の次男が婿養子の口が決まった直後に、隠居した父親が写筆した書がもとで家が闕所となり、連座して中追放になった。それから時がたち男は博徒の用心棒のようなことをして糊口をしのいでいたのだが、日和山での出入りに駆り出されて、抜刀して、さぁ相手を切り倒そうというときに、黒船がやってきて汽笛を鳴らすと、男は刀を投げ捨てて山を下るという話。これはさすがに訳が分からなかった。「いたずら書き」も藩主が何をしたかったのか今一つつかめなかった。

面白かったのは表題作の「江戸染まぬ」だ。これはミステリー的なストリーとして読んだ。さる大名の抱え屋敷に奉公している男の一人語りで進む物語だ。貧乏藩が借金で首が回らなくなり、若い当主を無理やり隠居させて、他国の大名の次男だか三男を持参金付きで養子に迎えたというよくある話が発端。前当主は二十歳そこそこなのに御老公と呼ばれ、根岸の里の抱え屋敷に追い出された。そこにいた下女に御老公の手がつき男の子が生まれたが、後々の争いの種になるということで、下女は宿下がりと称してたった十両で厄介払いされた。実は下女には五両しか渡されていなかったいうおまけつき。そして、下女の宿下がりに男が供をしていくことになったのだが、男はたった十両はかわいそうだからと、この話をしかるべき筋に売って金を儲けて更に十両をやると下女に話したのだ。そのあと下女の取った行動とはというストリー。「町になかったもの」も面白かった。意外な展開で、意外な着地点であり、高井蘭山と経典余師という書物もこの短編で初めて知ったことで、興味深かった。