隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

贖いのリミット

カリン・スローターの贖いのリミット(原題 THE KEPT WOMAN)を読んだ。この作品は北上ラジオ第12回で紹介されていた。

年末年始の休みは『贖いのリミット』カリン・スローターを読むためにあるのだ! 北上次郎「北上ラジオ」第12回 Presented by 本の雑誌社 - YouTube

本書はウィル・トレントシリーズの第8作で、北上ラジオでは「シリーズ物の一作ではあるが独立したストーリーなので、これだけを読んでも問題ない」と紹介されていた。確かに独立したストーリーなので、この作品だけを読んでもストーリーがわからなくなるということはないが、やはり人間関係が今一つわからないところがあるので、順番に読むべきなのだと思う。最も北上ラジオによるとアンジーは今までちょこっとしか出ていなくて、過去作を読んでも、彼女に関してはあまりわからないのかもしれないのだが。それ加えて、このシリーズはどの作品も長いのだ。この本も文庫で695ページもあり、ボリュームの割には速く読めたような気がするが、やはり6日ぐらい費やしているので、全部読むとなると、1カ月はゆうに超えてしまう。この作品はミステリーというよりは、まさに警察小説で、主人公のウィル・トレントジョージア州捜査局の捜査官で、凶悪・重罪犯罪の捜査を州のレベルで行っている部署の刑事だ。本書で扱っている内容も、アメリカの警察小説の典型的なテーマだと思われる、違法薬物、売春、悪徳警官、児童虐待、DVとてんこ盛りで、しかも本作では悪徳弁護士のおまけまでついている。

本書は3部構成になっていて、プロローグでは母と娘がどこかで襲撃され、重傷を負っている状況が提示されている。閉じこもっている部屋に男が侵入しようとして、母親の方が何とか男を撃退しようとしているところで終わるのだが、次の場面では、建設現場で元警官が殺され、辺り一面血の海という状況になっている。事件現場に残されていた車から発見された銃の所持者がウィルの別居中の妻アンジーであることから、プロローグの場面の女性の一人はアンジーであることが示唆されているのだが、アンジーも元警察官であり、今は薬の売人、売春婦の客引き、私立探偵のようなことをしているらしいことが明かされる。このウィルとアンジーの関係も単なる別居中の夫と妻という関係以上であることストーリーを読み進めていくとわかるのだが、過去のシリーズではどのように描かれていたのかが気になった。

そして、この事件現場になっている建物の所有者がプロバスケットボールの選手で、レイプ事件の容疑者として捜査されていたことから、話はだんだんと複雑になっていく。更に、葬儀社で女性の死体が発見され、置き去りにされていてた死体は、顔をつぶされ、指紋も傷つけられていて、簡単には身元がわからない。どんどん状況が混沌としていく中で、急に物語は事件の発端に巻き戻され、それまで何があったのかが明らかにされていくのだが(これが第2部)、それでも単純に物語は進行しない。過去に何があったがが読者に提示されても、一体誰が誰に殺されてたのかは捜査官のウィルにも容易にわからないし、作者のミスディレクションが読者にも容易に事件の全貌がわからないようになっているのだ。ストーリーは確かに面白い。アンジーとウィルの関係、そしてウィルの現在の恋人であるサラとの関係。この辺りの心理描写は女性ならではなのだと思う。だが、このアンジーはなぜこんなにタフなのだろう?それと、英語の題名のkept womanもどういう意味なのだろうと色々考えてしまった。アンジーも過去にとらわれていて、そのためなのかウィルに対して異常とも思える執着を持っている。また、アンジーの娘もまさにとらわれていて、このwomanはどちらを指しているのだろう。