隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

地球にちりばめられて

多和田葉子氏の地球にちりばめられてを読んだ。スウェーデンに留学中に故郷がなくなってしまったHirukoが、スカンジナビア半島で暮らすために、スウェーデン語、ノルウェー語、デンマーク語を混ぜ合わせてパンスカという新しい言葉を生み出した。そのHirukoがデンマークのテレビ番組に出演していたのを偶然見ていた言語学者の卵である大学院生のクヌートは、Hirukoに会って話がしたくてたまらなくなり、テレビ局に電話をかけた。そして、幸運にもHirukoに会えることになり、テレビ局に出かけていったところからこの物語は始まる。Hirukoは同郷の人間を探しているのだが、どこに行ってしまったのか、なかなか会えないというのだ。ただ、翌日ドイツのトリアーでウマミ・フェスティバルがあり、そこに行けば誰かに会える可能性があるという。クヌートも半ば強引に同行することを申し出たのだった。

Hirukoの故郷は「中国大陸とポリネシアの間に浮かぶ列島」と説明されているので、日本のようだ。しかも、福井とか北陸とか鮨のような言葉も出てくるので、日本だと思うのだが、作者は明確には日本だと書いていない。ここに何らかの仕掛けがあるのだと思うのだが、本書は三部作の第一巻目で、最後まで読んでも何も明らかにされなかった。時間軸も21世紀のこの時代とはちょっと違うような気がするのだが、それに関しても作者は明確に何も書いていない。Hirukoとクヌートの旅には次から次へといろいろな人物が巻き込まれるようにかかわってきて、メンバーがどんどん増えていく。最後にはフランスのアルルでSusanooという同郷の鮨職人に会うところで、本書は終わっている。だた、まだ旅は終わっておらず、今度はSusanooも巻き込んで旅立つことなっている。

日本が消滅したといっても、具体的にどういうことなのかも明確ではないが、日本人と思われるHirukoとSusanooはアルファベットで名前が表記されている点も何か仕掛けがあるような気がする。この小説は色々不思議なことがあるのだが、この先その不思議さは解消されるのだろうか?