隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

テスカトリポカ

佐藤究氏のテスカトリポカを読んだ。今回の小説は暗黒小説だ。

物語はメキシコから始まる。ルシア・セプルベダはメキシコの麻薬カルテルに牛耳られた故郷クリアカンを捨て、アカプルコに出た。そこの食堂で働いていた同僚の「日本に行く」という言葉に影響されて、自分も日本に行く事を思いつき、飛行機に乗って単身日本にやって来た。紆余曲折の後、暴力団幹部の土方興三と結婚し、コシモという男の子をもうける。土方は稼業が落ち目になるとDVをふるうようになり、ルシアは麻薬に溺れるようになっていた。そして、コシモはこの二人をはずみで殺してしまうことになる。

そして、物語は再びメキシコに戻る。ロス・カサソラスとドゴ・カルテルという2つの麻薬密売組織の抗争が激化し、互いに相手組織を攻撃し、抹殺しあっていた。その行為は単なる抹殺というようなものではなく、処刑であり、その一部始終を撮影しネットに流すことも行われていた。ロス・カサソラスは4兄弟によって運営されていたが、3人が処刑され、からくも生き残ったバルミロ・カサソラスは、なんとかメキシコを脱出し、流れ流れてインドネシアジャカルタに辿り着いた。

バルミロは調理師エル・コシネーロと名乗り麻薬の売人となり、雌伏の時を過ごしていた。何か大きな取引・商売の足掛かりを作り、再びメキシコに戻り、ドゴ・カルテルに復讐するというのが、彼の願いだった。バルミロは臓器ブローカーをしていた末永という元日本人医師の出会い、非合法の臓器売買を日本で立ち上げる話に乗るのだった。そして、物語の舞台は日本に移っていく。

本書の登場人物のほとんどが、どこかおかしく、その行動は異常だ。バルミロはその残虐性で群を抜いているし、行いも狂気じみている。その行動の裏側には、呪術的なアステカの神々がいるのだと言われて、なんとなく納得してしまった。タイトルのテスカトリポカはアステカの神の名前だ。バルミロ以外は誰も神など信じていないようだが、あの凶暴性はどこから来るのだろう?単なる狂気なのか。コシモは2メートルを超す巨漢の青年になるのだが、バルミロの闇ビジネスに取り込まれてしまう。そして、最後はアステカの神とエイブラハムの神との戦いになってしまう。本書は550ページを超える大作だが、終わりの方に近づいても、バルミロは日本で勢力拡大を図っていて、どうなるのだろうと思いながら読み進めた。暗黒小説の結末とはこういうものなのだろうというのが読後の感想だ。