隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

ピエタとトランジ <完全版>

藤野可織氏のピエタとトランジ <完全版>を読んだ。

ピエタがトランジと巡り合ったのは、彼女たちが17歳の時だった。ピエタの通っていた高校にトランジが転校してきたのだ。この物語は、それからの二人の物語だ。ピエタもトランジもニックネームで、本名がそのような音の響きに近いので、そのように呼ばれるようになった。とはいうものの、それは作者の目晦ましで、ピエタは「憐み・慈悲」を意味する言葉で、イエスを膝の上に抱いて悲しむマリアの事だろうし、トランジは「死にゆく」という事を表す言葉で、14から16世紀ごろに流行した貴族向けの墓の様式の事だろう。だからなのか、トランジは死を呼び寄せるのだ。トランジいるところに事件ありで、ちょっとかかわっただけで、バタバタと死んでいく。トランジは子供のころから名探偵よろしく、彼女の周りで起こった事件をズバリズバリと言い当てて、解決していくのだ。だが、この小説自体はミステリーではない。事件はいつの間にか起こり、起こった事件はトランジによって解決される。その間はない。トランジはやがて探偵になり、ピエタはトランジの助手兼記録係に収まる。恐ろしいことは、トランジの死を呼び寄せる体質は伝染するのだ。それも極めて頭のいい人間にだけ。だから、普通に頭のいいピエタはトランジと一緒にいても何でもない。彼女らはやがて「死を呼ぶババア探偵」と呼ばれるようになっていく。

ミステリーではないけれど、ミステリー的なものなのかと思って読みだした。最初のうちは、ミステリーのような雰囲気もあったが、だんだん何とも形容のし難い小説になっていった。ピエタとトランジの17歳から80歳過ぎまでの物語なのだが、最終的には世界はトランジの異常体質のためにとんでもないことになってしまうという終末小説でもある。そんな世の中になっても、二人は分かれずに一緒にいる。

単行本は「ピエタとトランジ <完全版>」の後に「ピエタとトランジ」が収録されていて、これは順番が逆の方が時間経過的にあっているのに、なぜそうしなかったのだろう。「<完全版>」の最初の所で出てくる高校生の時の物語が後半にある「ピエタとトランジ」なのだ。