隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

西洋美術とレイシズム

岡田温司氏の西洋美術とレイシズムを読んだ。本書は、西洋美術、とりわけキリスト教美術とレイシズムは密接なつながりがあるという事を指摘した本だ。この本を読んで、実は美術だけにとどまらず、キリスト教自身がレイシズムと密接に関係があるのだろうと思った。

ノアの箱舟

ノアの箱舟はいわゆる旧約聖書の創世期で語られる物語であり、この物語自体は子供のころから色々なところで見聞きしていたので、知っていた。だが、洪水が収まり、ノアの一族が再び地上で生活した後のことまではよく知らなかった。ノアはブドウ酒を飲んで酔っ払い、天幕の中で裸で眠り込んでしまった。ノアの息子のうちハムだけがその裸を見てしまい、他の二人の兄にそのことを告げたのだ。セムヤペテは、着物をとってきて後ろ向きに歩き、父親の裸を覆い隠した。酔いがさめたノアはハムにきっぱりと告げた。「カナンは呪われよ、奴隷の奴隷となり、兄たちに仕えよ」。カナンとはハムの子である。ノアの呪いはハムの息子、そしてその子孫に受け継がれていくことになった。更に、「セムの神、主をたたえよ。神がヤペテの領地を広げ、セムの天幕に彼を住まわせ、カナンはその奴隷となれ」と告げた。セムヤペテ、ハムの子孫が全世界に広がっていったというのが創世記の物語であり、ハムの子カナンが住んだのはエジプト辺りであり、エジプトから南の土地を「呪い」のしるしと「奴隷」運命の許に置こうとしているのだ。

本書には多数の絵画が収録されていて、このノアの呪いがどのようにキリスト教美術で描かれてきたのかも、詳しく解説されている。また、近年映画などでたびたび問題となるホワイトニングに関しても、キリスト教美術では遥か昔から、西洋人の肌を黒く塗ったり、あるいは明らかに褐色の肌の人なのに、白い肌で描いたり、顔の外形を西洋人のようにした絵画を多数生み出してきた。本書が指摘するように、キリスト教美術はレイシズムを拡散していると思う。ただ、美術は目で見ると明らかにわかることがあるのだが、その背景をわかっていないと、何を意味しているのか分からないという面もある。その点ではやはり聖書の知識というのはある程度知っているべきなのだと思った。