隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

とにもかくにもごはん

小野寺史宜氏の とにもかくにもごはんを読んだ。

この小説は北上ラジオの第35回で紹介されていた。

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タイトルに「ごはん」とあるように、あることがきっかけで子ども食堂を開いた松井波子の物語から始まる短編連作小説だ。この小説の構成はちょっと変わっていて面白い。松井波子の開いた子ども食堂は「クロード子ども食堂」という名前で、月2回、第2・4木曜日に開いている。5度目の子ども食堂が開かれた10月10日の木曜日の午後四時から物語が始まり、各章で語り手が変わりながら、子ども食堂が終了する午後八時まで続く。最初の章は松井波子が語り手となり、なぜ子ども食堂を開いたのかが明かされる。波子と夫の隆大はなんとなくすれ違ってぎくしゃくとした関係になっていた。ある日波子はスーパーからの帰り道で前を歩いている夫の隆大を見つけ、追いつかずに後をつけていると、家に向かわず、近所の公園のベンチでビールを飲み始めた。波子は「みっともないかやらめて」と声をかけ、琉大はなんでこんなところでビールを飲んでいるのかを語りだす。その出来事から5日後に隆大が交通事故に巻き込まれて亡くなるという急展開になる。数年たってようやく隆大の死を受け入れて、波子が子ども食堂を開こうと動き出すストーリが語られている。当然子ども食堂を開こうと思った理由は公園にあるのだ。北上ラジオには

最後2ページのどかーんを一緒に味わおう!

と書かれていて、ネタ晴らしになるが、最初と最後の語り手が松井波子であるところもこの「味わおう」の鍵になっている。この構成はうまく作られている。それと、最初の章で、松井波子が「あと二人はスタッフが欲しい」というようなことを言っていて、この物語が終わるまでにちゃっかり新しいボランテイァを二人もスカウトしている辺りも、物語の運びがうまいなぁと感じた。

小野寺史宜氏の作品はこの作品とまち - 隠居日録しか読んでないが、ストーリーの中に決定的な悪人は出てこないのが特徴なのではないだろうか。この作品の中にもちょっと嫌な感じの人物は出てくるが、決して悪人としては描かれていない。