隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

底惚れ

青山文平氏の底惚れを読んだ。読み始めてすぐ、「これは読んだことがあるぞ」と強烈な既視感に襲われた。もう一度タイトルを見た。出版日も見直した。最近出版された本だ。しかし、このストーリーは「江戸染まぬ」じゃないか。でも、短編ではない。どうやら、「江戸染まぬ」を出だしにて、その後に書き加えて長編にしたようだ。江戸染まぬのあの刺された男が死なずに生き延びたらどうなるのだろうかという物語だ。

ある種成り上がりの物語でもあるのだろう。だが、単純にそうとも言えない。「江戸染まぬ」では芳の思っていたことと男が考えていたことが決定的に違って、悲劇が訪れるが、この物語でも、男がこうだろうと思って、芳のためにやろうとしたこと・やったことと、物語では芳がどのように暮らしているかは明確には書かれていないが、多分芳の身に起きていたことが決定的に違っていて、そのギャップが面白い。「なぜ入江町に」というのは男が勝手に考えたことで、さして根拠があるわけではない。ただそこに願をかけて突っ走った果ての行きついた先だ。これでこの男は「江戸染まぬ」から抜け出られたのだろうとは思う。

全くの余談だが、女郎屋の割床が一部屋を屏風などの衝立で区切っただけというのは知らなかった。