隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

絞め殺しの樹

河崎秋子氏の絞め殺しの樹を読んだ。この作品は北上ラジオの第43回で紹介されていた。
最後には根源的な力がむくむくと湧いてくる『絞め殺しの樹』川﨑秋子(小学館)を手に取るべし!【北上ラジオ#43】 - YouTube

何とも物騒なタイトルの小説だというのが、本書を知ったときの第一印象だ。それと表紙に書かれている絵も、何とも重苦しい感じがする。読み終わった今、これがどの場面であるかを考えると、何とも言えない気持ちになる。北上ラジオでも言及されているが、この小説は第一部と第二部に分かれていて、第一部は直接的にぐいぐいと精神を削られるような小説だ。そして、第二部を読むと、色々と腑に落ちるところも出てくるが、第一部に輪をかけて精神を削られる。土地にしがみつき、土地に縛り付けられる人間を恐ろしさのようなものが否が応でも覆いかぶさってくるようだ。

物語は昭和10年から始まる。橋口ミサエは10歳だった。ミサエの母親はミサエを生んで3日後に亡くなり、祖母に育てられた。その祖母も4歳の時に亡くなり、住んでいた根室から新潟の親戚に引き取られた。新潟に暮らして4年後、かって祖母がかって世話になっていた吉岡家が、「当家でミサエを引き取り、家での仕事を手伝ってもらいつつ、彼女の故郷である根室で養育したい」と手紙をよこしてきた。それがきっかけとなり、ミサエは根室に戻ることになったのだが、根室で待ち受けていたのは過酷な境遇だった。朝から晩までこき使われり、給金などない奴隷的な労働だった。

色々ネタバレになるので本当にあまり書けないが、出てくる人間一癖も二癖もあり、一見善人そうに見える人も実はとんでもない人間だったというような場合が多い。だがミサエを助けてくれる人もいて、それで運が上向くような感じになるのだが、ミサエはこの吉岡家に何度もからめとられてしまうのだ。正にそのさまが「絞め殺しの樹」だ。絞め殺しの樹とは蔓性の植物で、他の植物に巻き付いてその樹木から栄養を吸い取り、枯らしてしまうのだという。そして、第二部に移る。第一部に比べると第二部はページ数が少ないので、第二部の主人公がどうなったかまでは書かれていないが、明確な意思は書かれている。そのことがこの物語の救いなのだろう。