隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

犬神家の戸籍

遠藤正敬氏の犬神家の戸籍を読んだ。言わずと知れた横溝正史犬神家の一族をネタ元にして、戸籍制度について論じた本だ。犬神家の一族はフィクションであり、横溝正史がどこまで法律の知識を持っていたかはわからないので、厳密に突っ込みを入れるのも野暮ではあるが、事件が起こったのが旧民法の時代の戸籍制度が残っている時代設定ならば、確かに財産のみならず、家督相続という事もきちんと述べておく必要があったっという事はよくわかった。今の時代からすると家督相続という言葉は聞いたことがあっても、実際それが意味するところは何なのかというのはあまり考えたこともなかったので、なるほどと思った。当時は何よりも家の存続が重要であり、それは祖先崇拝の気持ちが強かったからなのだろう。

この本を読んでいて気付いたのは、私は市川崑監督の新・旧映画も見たし、テレビで放送されていた古谷一行演じるドラマも見たが、小説は読んでいなかったという事だ。青沼静馬が津田家に養子に出されたいたことや青沼菊野がそのような形で後年に犬神家にかかわっていたという事は全然記憶しておらず、映画やドラマでは省略された部分なのだという。

それと全く知らなかったのだが、遺言書は裁判所に提出して、検認を受けなければ、執行できないようになっているという事だ。なんとなく、当事者どうして了解すれば執行できると思っていたのだが、そんなに単純なものではないらしい。

本書には正史の父親に関することが正史の自伝「書かでもの記」の内容を参照して書かれているが、正史の書いた小説にも劣らないような複雑な家族関係になっていて、もしかすると、それが横溝作品に複雑な家族関係がたびたび出てくる原因なのだろうかと妄想してしまった。