隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙

ブライアン・グリーンの時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙(原題 Until the End of Time Mind, Matter and Our Search for Meaning in Evolving Universe)を読んだ。物理学者ブライアン・グリーンが生命誕生から宇宙の終焉までを解説する。本書は600ページを超える大作なのだが、後ろの方には索引、参考文献、作者注が100ページぐらいにわたって収録されているので、正味は520ページぐらいの分量で、それでもやはり長い。ただ、4章から8章は物理学とは直接関係のない、生命、言語、宗教、意識、芸術などについて語っていて、どうも消化不良の感が否めない。それぞれの起源・由来などについて解説を加えているのだが、未だに明らかになっていないことだらけなので、「こんな考えもある、こんな説もある」的な記述になっているので、読んでいてもさほど新たな発見もないし、それらの説の確からしさに関しても疑問が浮かぶ物もある。これらの章で面白かったのは7章の「脳と信念」のP334の「1960年代の末のこと、陽光が燦燦と降り注ぐある日」から始まる思い出話だ。著者は父と妹とセントラルパークを散歩していたのだが、ナウムバーグ野外音楽場に集まっていたクリシュナ教徒の一団と出くわし、その中に頭頂部に一束の毛髪をのこうした以外はスキンヘッドにして太鼓をたたいてる一人の男を発見した。実はその男は著者の兄だったのだ。それだけでもちょっと驚くが、実は本書の後半でこの一家はユダヤ教徒だったことが書かれている。何が著者の兄をしてユダヤ教徒を離れて、クリシュナ教徒に入信させたのかは書かれていないが、これは驚いたであろう。

本書を読んであらためて気づいたのは、私はどうやら「エントロピー」について明確な理解を得ていないという事だ。この言葉を最初に見たのは熱力学だったのだと思うのだが、その後は情報工学でも目にしている。結局なんとなく「乱雑さを表す」というぐらいの曖昧な意味合いしか頭に残っていなく、熱力学の第二法則からの「エントロピーは増大する」が意味するところも明確に理解せぬまま、呪文のように頭に残っているだけだ。本書を読んでも、やっぱり理解が追い付いていない。

また、恒星の誕生もなんだかちょっと理解が追い付かないような状況が発生している。恒星の発生はガス雲の形成に始まる。球状に寄り集まったガスの分子は、分子の数が多いため、中央から離れるガスの分子は引力的重力のために、中央に引き寄せられ、スピードが落ちる。スピードが落ちるという事は温度が下がることになる。逆に中心部では引力が強くなり、分子のスピードは速くなり、温度が上がる。

つまり、熱が中心部から流れ出すにつれて、中心部の温度は上がり、周辺部の温度は下がるのだ。周辺部が中心部の熱を吸収するにつれて、増加した熱はガス雲をさらに膨らませようとする。外に向かうガス分子は、内部に引っ張る重力に逆らうために、スピードが落ちる。その正味の効果として、拡大する周辺部の温度は上がるのではなく、下がる。逆に、中心部は熱を手放すにつれて、エネルギーが減少し、ますます収縮に拍車がかかる。中心に向かう分子は内側に引っ張る重力と同じ向きに流れるため、落下するにつれて加速し、スピードが上がる。そのため、収縮する中心部の温度は下がるのではなく、上がるのだ。中心部と周辺部の温度差はどんどん開いていって、熱はさらに激しく流れるようになり、最終的には核融合に至ることになり、恒星が誕生するのだ。

本書が面白くなるのは9章以降だと思われるが、読んでいて理解できたかと言われれば、力強く頷くことはできない。残念ながらよくわからないところも多々あるし、イメージが追い付かないところもある。また、ブラックホールに関しては生成されると消えることがないと思っていたら、そうでもないようなのは意外なことで知らなかった。ホーキング放射という言葉も聞いたことはあったが、具体的には理解していなかったことで、この内容もかなり理解するのが困難だ。どのような条件でこのようなことが発生するのかも明確に書かれていないのも理解が追い付かない理由の一つだ。

ホーキング放射というこういうことだ。粒子―反粒子のペアがブラックホールの地平面のすぐ外側にあったと仮定する。そして、ペアが消滅せずに、一方だけブラックホールに吸い込まれたとする。そうするとエネルギー保存の観点からして、ペアの粒子はブラックホールから離れていくことになる。ブラックホールから離れていく粒子は正のエネルギーを持っているので、ブラックホールに落下した粒子は負のエネルギーを持つことになる。そうするとブラックホールは負のエネルギーをため込むことになるので、質量が低下していくことになるのだ。外から見るとブラックホールは粒子を放出しながら縮んでいくように見える。最終的にはブラックホールは消滅することになるのだろう。