隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

Babel I 少女は言葉の旅に出る

古宮九時氏のBabel I 少女は言葉の旅に出るを読んだ。本書は、女子大生の水瀬雫が真夏の暑い日に道を歩いていると、黒い影のようなものが合わられて、何だろうと不思議に思っていると、その影の中に吸い込まれて、気づいてた異世界にいたことから始まるファンタジー作品。

最近の異世界物と言えば、異世界転生が流行りになっていて、異世界に行ったものは元の世界に戻ってこないというようなストーリーが多いが、本書では主人公の雫は元の世界に戻ろうとあれこれ奮闘するという事になっている。ジョセフ・キャンベルの神話の法則にしたがえば、異世界に行った英雄は冒険をして、何かしらの力を得て、元の世界に戻ってくるのが典型的なパターンなので、最近の転生ものはいったいなぜ一方通行なのだろうと不思議に思っている。この物語の最後で、雫が元の世界に戻ってこれるかどうかはまだわからないが、本作品は神話の王道パターンだと思える。

それともう一つ。異世界に行った場合の言葉の問題も気になるところだ。本書では日本語の会話は通じるが、異なる文字を使っているという設定になっている。この部分も言葉が通じない場合が圧倒的に多いはずなので、物語を進める上で致し方ないとはいえ、ちょっと気になるところではある。言葉は通じるとはいえ、理解できる概念とできない概念もあるので、どこまで理解できるかのには限界があると思う。それに動植物なども同一とまではいわないまでも、同様なものがいるとは考えにくい。

雫は魔法文字を研究する魔法士のエリクと知己を得、魔法大国のファルサスに行けば元の世界の戻るための情報が得られるかもしれないという事で、二人でファルサス行の旅に出る。作者も本書の中で言及しているが、この形式は西遊記を彷彿とさせる構造になっている。ただ、雫自身には特別な力はない。にもかかわらず、彼女はだんだん大胆になっていって、本書の5章「禁じられた夢想」ではかなり危険な行動に出ている。そして、本書の最後で雫とエリクは移転魔法でどこか見知らぬところに迷い込んでしまったところで終わっている。旅はまだまだ続く。