アンヌ・モレリの戦争プロパガンダ 10の法則(原題 Principes élémentaires propagande de guerrel)を読んだ。
本書は1928年にロンドンで出版されたアーサー・ポンソンビーの「戦争の嘘」に書かれている戦争のプロパガンダの10項目の法則について、著者のモレリが各項目ごとに具体的な例を挙げ、ポンソンビーの指摘が第一次世界大戦に限ったことではなく、現存する政治システムでも、紛争が起きるたびに繰り返され使われていることを示した本である。本書のオリジナルの出版は2001年であるが、それから20年以上経った今でも、間違いなくこの10の法則は当てはまり、悲しいことではあるが本当に普遍的な法則になっていることがよくわかる。
本書で挙げられている10の法則とは以下のようなものである。
- われわれは戦争をしてたくない
- しかし敵が一方的に戦争を望んだ
- われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う
- 敵の指導者は悪魔のような人間だ
- われわれも誤って犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為に及んでいる
- 敵は卑劣な兵器や戦略を用いている
- われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大
- 芸術家や知識人も正義の戦いを支持している
- われわれの大義は神聖のものである
- この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である
つい最近「プーチンの意味不明な言説」に関してジョージ・オーウェルの1984年で読み解けば理解できるという記事を目にした。そういう考え方もあるが、むしろ彼はこの10の法則を忠実に守って発信しているのだと考えた方がしっくりくると思う。ジョージ・オーウェルがポンソンビーの戦争の嘘を踏まえて、あのような不思議な二重思考にまみれた小説を書いたのかどうかは分からない。
戦争・紛争が始まると虚実入り乱れた情報が飛び交い、一体何を信じていいのかわからなくなる。本書で述べられているが、プロパガンダには「美談」が必要で、「美談」がなければ作ればいいと思っている者がいることもまた事実だ。だから「美談」が出てきたときは一層注意して情報に接しないといけないと思った。
また、しばしば敵対する相手の事を「ヒトラー」になぞらえて、絶対的な悪であることを強調するような発言をする人を見かけることがあるが、そのような人は既にこの法則を用いる人であり、他の発言も注意しなければならないと思った。