隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

対テロ工作員になった私

トレイシー・ワルダーの対テロ工作員になった私「ごく普通の女子学生」がCIAにスカウトされて (原題 THE UNEXPECTED SPY)を読んだ。タイトルにある通り(だが、日本語のタイトルはちょっと誇張し過ぎていると思うが)、教師志望の普通の女子大生がCIAを就職先に選び、その後FBIに転身し、更に最終的には教師になった物語だ。日本語で「CIAにスカウトされ」と言われると、この女性が何らかの才能を持っていて、それにCIAが着目して、CIAの方から採用したように思えるが、そうではなく、CIAが諜報員採用についても普通に大学でリクルート活動していたというかなり意外な状況だった。CIAにも間接部門があり、そのような人員は大学の就職説明会などを通して採用することもあるだろうが、諜報員も同様に募集しているとはかなり驚きだ。と言っても、職種が職種なので、通常の採用プロセスとは異なっているようだ。

トレイシーが採用された直後にあの911が起こり、その後はテロとの戦いに彼女も巻き込まれていくが、あの「イラク大量破壊兵器がある」のかないのかという議論においてはCIAの現場では「ない」という報告をホワイトハウスに上げていたが、なぜかどこかで「ある」という風に話が作らていったというのが本書での彼女の主張だ。結論としてはなかったのだが、ではだれがどこであるという事にしたのかの疑問が未だに解決されなくて、モヤモヤしている。それと、大量破壊兵というのは核兵器の言い換えなのだと思っていたのだが、そうではないようで、毒物も含む、一度に大量の人を殺戮可能な兵器のことを指しているようだ。

トレイシーは国外、特に紛争地域での活動に限界を感じたようで(それだけではなく、マッチョな体質のCIAにも辟易していたのもあるだろうが)、2004年に活動がアメリカ国内であるFBIに再就職するが、本書を読んでFBIのCIA嫌いは徹底していると感じた。それはバージニア州クワンティコでの研修の章に詳しく書かれているが、教官から徹底的に嫌がらせを受け、同期の研修生からも孤立している様子がわかる。本書には最初の方に内容に関してはCIAのチェックは受けていると書かれているが、FBIのチェックを受けているとは書かれていない。なので、この章に出てくる教官やFBIの他の職員の名前が本当かどうかは判断がつかなかった。結局FBIも15カ月で辞めることになるが、それは彼女が思っていたような仕事をさせてもらえなかったことが大きいのだと思う。

結局トレシーは高校の教師になるようだが、一見遠回りして元の希望している所に戻ってきた感もあるが、彼女にとっては必要なキャリアだったのだと思う。