隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

愚かな薔薇

恩田陸氏の愚かな薔薇を読んだ。ジャンル的にはファンタジーになると思うのだが、何か非常に土俗的な感じがするストーリーだった。場所も盤座という土地だけが舞台になっていて、そこで行われる祭りからその感じがするし、その地にキャンプと称して集められた少年少女たちが行わさせられている「血切り」というのも一層強く土俗的なものが強められていると感じた。読んでいてちょっとよく理解できなかったのは、このような風習がいつから存在していたのかという事だ。高々数十年だと思うのだが、物語上はかなり昔から行われているような感じに書かれていて、一体どうなっているのだろうという疑問が残った。

物語は高田奈智という少女が盤座で行わるキャンプに参加するためにこの町にやってくるところから始まる。キャンプと言っても野外にテントを張って宿泊するキャンプではなく、合宿と言った感じの校外活動で、14歳あるいは15歳ぐらいの少年少女の中から適性のあるものが集められているようだ。高田奈智は盤座の出身だが、両親が亡くなって叔父に引き取られてからは、たまにしかこの土地を訪れたことがなく、キャンプで何をするのかもよくわかっていなかった。実際には集められた少年少女は特別に何かを教わることもなく、むしろ観察の対象になっているといった感じだ。大人たちは彼らが変質するのを見極めようとしているのだ。変質したもの中から虚ろ舟乗りが選抜され、星への海に漕ぎだしていくのだ。

ここに出てくる変質というのは吸血鬼化するということで、それ故に吸血行動が伴っている。変質が終われば食事をする必要もないし、大量の血も必要ないらしい。そういう体が宇宙空間での移動に有利だという事で、宇宙船である虚ろ舟の操縦者に適しいて、この世界の人々は変質の体質を持つ子供を見極めようとしているのだ。なぜ、宇宙に出ていかなければならないかは、いずれ太陽が膨張し、太陽系の惑星を飲み込むことがわかっているからで、移住先を探す必要があるからだ。大学教授のように小説を読む方法 - 隠居日録では、吸血行為というものと性的行為というのが結びつくと示唆されているが、本書でもその考えに沿って書かれている。やはり、吸血行為というものの取り扱いというのはそういう考えに基づくのは洋の東西を問わず同じという事なのだろうか?

本書はページ数が多いので、物語はどこまで広がっていくのだろうと読み進めたが、ひと夏の間に高田奈智の身に起きたことが語られている。そこがメインの部分で、彼女の過去を絡めつつ、虚ろ舟の意味とか変質の意味について謎が明かされている。物語は一応完結しているけれど、続編があってもおかしくないような気もする。作者の気が向けば出てくるのかも知れない。

巻末に初出一覧が出ているのだが、2006年のSF JapanのAUTUMN号が連載第一回目のようで、それから断続的に2020年まで書かれていて、一冊の本にまとまって出版されたのが2021年12月なので、15年以上の歳月がかかって完成した本という事になる。これはよく続けられたものだなぁと思う。