隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

数学の大統一に挑む

エドワード・フレンケルの数学の大統一に挑む (原題 Love and Math The Heart of Hidden Reality)を読んだ。エドワード・フレンケルは旧ソビエト出身の数学者で、現在はラングランズ・プログラムという数学の中の異なる分野間の概念にお互いに密接に関係していることを探る、ある種数学を統一化する概念を研究している。実はこのラングランズ・プログラムというものに興味があり、なんとか少しでもわからないものだろうかと読み始めたのだが、最初はなんとなくわかっているような気がしたのだが、後半に行けば行くほど理解が全くできず、残念ながら理解できなかった。

本書はフレンケルの自伝的な部分、彼のこれまでも研究、そしてラングランズ・プログラムがどのようなものかという事が記述されている。自伝的な部分はフレンケルが数学を目指し始めたころから始まるのだが、実は彼の家系はユダヤ人で、1980年代後半のソビエトの数学界ではユダヤ人に対して厳しい差別があったことがまず書かれている。そもそも、宗教が認めたれていないソビエトにおいてユダヤ人という概念が存在すること自体奇妙なのだが、ソビエトではユダヤの家系・血筋を引くものがユダヤ人とみなされ、差別の対象となっていた。そして、当時は成績が優秀でもモスクワ大学の力学数学部というソビエト数学教育の中枢には入学が許されていなかった。別の大学に行ったとしても、大学院に進むことが極めて難しく、就職先を探すのも困難を伴っていた。フレンケルはモスクワ大学を受けるが口述試験で嫌がらせをされて入学できず、石油ガス研究所という日本語に直すと大学とは思えないような名前の大学に入学した。

フレンケルはただ楽しかったから数学の研究を続けてきたと書いてはいるが、興味深かったのは、ソビエトにおける共産主義と科学の関係に関する記述だった。ソビエトではあらゆる学問が共産党の厳しい管理下に置かれ、マルクスレーニン主義と相容れない考えを持つものは弾圧されていた。しかし、数学と理論物理学だけは比較的自由だったというのだ。なぜなら、この分野があまりにも抽象的で難しく、党首脳部が理解できなかったためで、だがそれらの学問が核開発には不可欠であることだけは彼らが理解していたからだというのだ。フレンケルは多くの才能ある若い学生たちが数学を職業として選んだのはこのためだと考えているようだ。