隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

空をこえて七星のかなた

加納朋子氏の空をこえて七星のかなたを読んだ。本の雑誌で北上氏が「これほど読後感のいい小説も珍しい」と書いていて、興味を持って読んでみた。

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そこで紹介されているのは短編は、廃部の危機にあった文芸部員、天文部、オカルト研究会が合併してスペースミステリ部が誕生するところから始まる。しかし、部員は最低でも5人必要という事で、合併をさせた張本人の美人副会長が加入して、なんだか不思議な活動を開始してという「箱庭に降る星は」という短編だ。他にも「南十字星に会いに行く」、「星はすばる」、「木星荘のビーナス」、「弧舟よ星の海を征け」、「星の子」、「リフトオフ」が収録されていて全7編。それぞれのストーリーが星とか宇宙に関係するよう物語になっているのが、本書に一つの特徴だ。

個人的には「南十字星に会いに行く」も面白かった。父と娘が中学の合格祝いとして南の島石垣島に向かう話なのだが、なぜか母が出てこない。亡くなったのか、離婚したのか、なかなか理由がわからない。なぜなのだろうと思っていると、その謎は最後に明かされる。色々な登場人物が最後に繋がっているというのはこの短編集のカラーを決めたような感じがする。

「弧舟よ星の海を征け」も面白かった。宇宙船に小惑星が衝突して、脱出艇で船外に避難しなければならいのだが、小惑星の衝突せいで脱出艇の数が足りない。やむを得ず主人公の少年の父親はスペースヨットとコールドスリープを使って主人公を船外に避難させてという出だしで始まり、少年は数年後救助され、蘇生される。しかし、コールドスリープからの機能回復には時間がかかり、記憶があいまいになっていて、自分が誰だかわからない。この物語は後半にかけて明らかになる真実が読みどころ。

最後の「リフトオフ」にも仕掛けがあるが、ネタバレになるので書かない。これらの物語には夢を叶えるために、あきらめず頑張るというような共通のテーマがあり、それがよい読後感に繋がっているのだと思う。もう少し書きたいこともあるが、ネタバラシになってしまうので書きにくい。