隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

ロボット学者、植物に学ぶ―自然に秘められた未来のテクノロジー

バルバラ・マッツォライのロボット学者、植物に学ぶ―自然に秘められた未来のテクノロジー (原題 LA NATURA GENIALE)を読んだ。

生物をモデルに模倣して、それを工学的に再現してロボットに適応するのが著者の目指している所で、このこと自体は今やあまり珍しくはないだろう。しかし、本書の著者が模倣しようとしている対象は植物であり、実際植物をモデルにしてロボット プラントイド を作ってしまったのだ。これは根の機能が中心的なロボットで、人工の根の先端部分には水、重力、温度、化学物質などを測定するセンサーが装備されており、障害物を避けるための触覚センサーもついている。しかも、この根ロボットは植物が行っているように成長によって動くという事だ。それを可能にしたのが3Dプリンターだ。3Dプリンターが小型化され、根の先端の内部に組み込まれているのだ。根ロボットの先端にはモーターが組み込まれていて、温度で変形するプラスチック製フィラメントをリールから引き出す。引き出されたフィラメントは抵抗器で熱せられ、柔らかくなると同時に粘着性も生まれ、先に生成された層に付着する。このようにして、根が成長していく。

彼らはまたトリガープラントにヒントを得て「浸透圧アクチュエーター」を開発した。トリガープラントの花に昆虫がとまると、昆虫の重さが浸透圧を変化させ、15ミリ秒で蕊柱がはじかれたように出てくる。このアクチュエタ―を動かすのは塩化ナトリウムの濃度が低い「部屋」から、濃度が高い「部屋」へ移動する水の流れだ。水が流れると膜が膨張し、科学的・物理的な現象が力学的なプロセスに変換され、運動を生み出す。このアクチュエーターは最初に充填した塩だけで稼働し、それ以上の燃料補給は必要ない。

この浸透圧アクチュエーターを用いて開発しているのがGrowBotで、このGrowBotはつる植物の動きを模倣して、支柱に巻くつくことができる。また、元に戻ることもできる。

これらのロボットが今すぐ何かの問題を解決することはないのであろうが、植物自体を理解する助けにはなると思うし、動物的な動作のスピードとは違った、エネルギー効率がすぐれたロボットが将来構築できるのではないかと思う。

実は本書の中で興味深かったのはロボットの話もあるのだが、地中の植物のネットワークの話だ。ブリティッシュコロンビア大学スザンヌ・シマードが実験で明らかにしたことではあるが、カバの木とモミの木が土壌を通して炭素を送りあっているのだ。2種類の木の間で交換される炭素の量は一定ではなく、樹木の状態や季節によって変化するというのだ。夏はカバが日陰のモミに多くの炭素を送っていて、秋と冬はより多くの炭素をカバが受け取っている。カバは落葉樹で、寒い冬の時期は葉を落とすので、光合成を行えないからだ。さらに、この2つの木は窒素、リン、水、ホルモン、防御信号も交換していることがわかっている。このコミュニケーションを可能にしているのが「菌根」で、これは植物の根と真菌類が結びついてできたものだ。菌類は自分で作れない有機化合物を受け取り、根は菌類から光合成に必要なリンなどの無機塩類を受け取る。菌根は菌糸体を通して地中に巨大なネットワークを作り出していて、数キロの範囲に広がって、数百の個体が含まれることがある。植物と菌類が共生関係があることは土・牛・微生物ー文明の衰退を食い止める土の話 - 隠居日録にも書かれていたが、思ったよりももっと広範囲なネットワークが構築されているようだ。そうだとすると、本当に単一作物の生育というのは無理がある方法なのだろうなぁ。