隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

爆発物処理班の遭遇したスピン

佐藤究氏の爆発物処理班の遭遇したスピンを読んだ。本書は短編集で、本のタイトルにもなっている表題作を含む8編が収録されている。収録作は、「爆発物処理班の遭遇したスピン」、「ジェリーウォーカー」、「シビル・ライズ」、「猿人マグラ」、「スマイルヘッズ」、「ボイル・オクトパス」、「九三式」、「くぎ」。

表題作の「爆発物処理班の遭遇したスピン」のスピンは量子力学で出てくるスピンのことで、ある部分はSF的なのだが、ちょっと物足りなく感じた。面白かったのは「シビル・ライズ」、「ボイル・オクトパス」、「九三式」、「くぎ」。「シビル・ライズ」は暴対法の施行で落ちぶれてしまったやくざの身に起きた「けじめ」に関する話で、ダークな救いようのない落ちが良い。「ボイル・オクトパス」は退職警察官を取材しているルポライターアメリカまで退職警察官を取材しに行ったのだが、あまりにもな出来事が起きて、没になった記事という体で事件を語る。これはどうなるか予測できなかった。「九三式」は最初に帝銀事件の挿話があり、これとそれ以降のGHQによる野犬狩りがどうつながるのかと思っていたら、ダークな落ちが待っていた。「くぎ」は傷害事件で捕まり保護観察処分にある少年が塗装工として働いてきたときにふと発見した五寸釘から始まる物語で、これもダークな感じの物語で、著者の味が出ていると思った。これは後半ミステリーようなな感じになっている。