隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

録音された誘拐

阿津川辰海氏の録音された誘拐を読んだ。これはよくできたミステリーだ。

タイトルにある通り、このミステリーで扱っているのは誘拐事件だ。本書の中でも散々指摘されているが、今時営利誘拐ほどリスキーな犯罪はないだろう。決定的な問題は身代金回収のために犯人がその姿を晒してしまうことだ(今なら暗号資産という手もあるだろうが、誰が受取人かわからないだけで、それを使っても完全に安全でもないのだろう)。このところも、この小説ではうまく処理しているし、あっちこっちに伏線が張られていて、読んでいくとなるほどと納得させられる。犯人が最初から分かっているので、倒叙物でもあり、犯人と探偵の知恵比べの小説でもある。

小説のスタートは物語の終わりの方から書かれていて、誘拐されていた大野探偵事務所の所長である糺が発見されたところから始まる。その場面はわずか2ページほどで終わり、次の場面は時間が半年ほど巻き戻り、二人の男が犯罪の相談をしている所になる。そこで誘拐が企てられていることが明かされるのだが、当然詳細は不明だ。こうしてこの小説はスタートするのだが、内容を書いていくとネタ晴らしになってしまうので、あまりかけない。この終わり方からすると、作者はシリーズ化を考えているのだろうか?