隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

あさとほ

新名智氏のあさとほを読んだ。この小説はどのジャンルに入るのか判断に苦しむ。何とも言えない不思議なストーリだった。

大橋夏日には青葉という名前の双子の妹がいたはずなのだが、小学生の頃のある日廃屋を探検している時にいなくなってしまった。不思議なことは、両親すら青葉の存在を覚えておらず、青葉の存在した痕跡も一切なくなってしまったことだ。それから十数年たち、夏日は文学部に入学した。だが、ある日今度は卒業論文の指導教官の教授が行方不明になった。その後、同じ教授に指導を受けていた同級生が自殺し、その自殺には「あさほと」という名前の散逸物語が関係してのではと夏日は疑いだした。そして、教授の失踪もそれに関係あるのではと考え色々調べだすのだった。

これは物語と現実の淡い描いた小説なのだろうと思う。最後まで読むと、一応筋が通っているような気もするが、では最初にいた双子の姉妹は本当にいたのだろうかという疑問が湧いてくる。ただ、読んでいて興味深かったのは、古典における「〇〇日記」というようなものは、なんとなく日記なのだから実際にあったことが書かれているのだろうと勝手に思っていたが、そんなことは誰も保証できない、むしろそこに虚構があっても不思議ではないというような話には、「あっ、なるほど」と思った。読んだことはないが、紀貫之の「土佐日記」などは日記というタイトルになっているが、女性が書いたという設定なので、どこまで事実なのかはわからないのだろうと思う。