隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

走馬灯のセトリは考えておいて

柴田勝家氏の走馬灯のセトリは考えておいてを読んだ。本書はSF短編集で「オンライン福男」、「クランツマンの秘仏」、「絶滅の作法」、「火星環境下における宗教性原虫の適応と分布」、「姫日記」、「走馬灯のセトリは考えておいて」の6編。

「オンライン福男」はコロナウィルスの影響で福男を決める競走がメタバースのようなオンラインに移行したらというストリー。「クランツマンの秘仏」は厨子の中の絶対秘仏は存在しているのかしていないかの調査に関する評伝を孫が書いたという体をとっているのだが、「物質の存在には信仰が必要」という考えが反転して「信仰さえあればいかなる物質も存在する」という事をさも実際にあったことのように書いている。この「物質」がこの物語では「秘仏」になっていて、いかにもこの作者が書きそうなストーリーになっている。「絶滅の作法」は人類が絶滅した後に、再現された地球に移住してきたエイリアンの物語。「火星環境下における宗教性原虫の適応と分布」もこの作者らしい作品だ。火星人(実際には火星に送られた探査機)に寄生している宗教性を持った原虫の生態(?)に関して、いかにもありそうな蘊蓄を披露している論文の体裁をとっているSFだ。「姫日記」は「姫戦姫」という実際にあるゲームをプレーしての日記風の小説で、ここから本当に柴田勝家ペンネームが生まれたというのか?ちょっと半信半疑だ。「走馬灯のセトリは考えておいて」は死者を仮想的に再現する「ライフキャスト」を作ることを仕事にしている小清水イノルがVTuberの再現を依頼され、しかも本人の最後のときにラストライブをすると言うストーリだ。

この中では作者らしいと感じた「クランツマンの秘仏」と「火星環境下における宗教性原虫の適応と分布」が興味深かったが、「姫日記」も事実なのか創作なのかわからなくて、ちょっと気になっている。