隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

サード・キッチン

白尾悠氏のサード・キッチンを読んだ。東京の都立高校に通う普通の高校生だった加藤尚実は留学して、憧れのアメリカの大学に入学したものの、やはり言葉の問題でなかなか周りの人たちと関係が築けずに悶々としていた。寮の同室のクレアは当然のことながらアメリカ生まれ、アメリカ育ちで、言葉の問題もあるがバックグラウンドが違い過ぎていて、うまく関係を築けない。しかも、自分のことを見下しているのが明らかだった。友達ができないまま図書館にこもるような生活を続けていたのだが、ひょんなことから寮の隣室のアンドレアと仲良くなり、それから少しずつ尚美の学生生活も変わっていく。

物語の出だしは、王道の青春小説ぽい感じだった。タイトルにもなっているサード・キッチンとは学生自ら運営していて、食材の調達、料理の準備から後片付けまですべてを自分たちで行っている学生のための食堂で、サード・キッチンはマイノリティのためのキッチンを目標に掲げている。人種的マイノリティ、性別のマイノリティ、宗教的マイノリティとどのマイノリティでも加入の資格はあるが、実際に加入できるかどうかはメンバーの面接を通して決められれ事になっている。尚美は最初ゲストとしてそこに参加し、その後メンバーとなり、差別やマイノリティついても考えていくことになる。この差別やマイノリティ、貧困、格差のような視点がこの物語に加わることで、単なる青春小説ではなくなっていった。

尚美はサード・キッチンに関わることで、自らが大学に入学してから色々なことで差別されていたことに気付くが、それと同時に過去自分も差別していたことにも思い至る。された差別とした差別の間で考えがうまくまとめられず、どうしたら差別をしないで人と付き合っていけるのか尚美は大いに悩んでしまうのだが、単純な解決方法などあるはずもない。また、過去に一度も差別的な言動をしたことがないという人もまずいないだろうし、過去に差別をしたからと言って、現在進行形で誰かを差別しているのでもない限り、他人の差別を諫めることができないとも思えない。時代が変われば差別の捉え方も変わっていくという側面もあるので、常にこの問題について考え続けるしかないのだろう。