隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

数学の女王

伏尾美紀氏の数学の女王を読んだ。本作は北緯43度のコールドケース - 隠居日録の続編ではあるが、前作を読んでいなくても問題なく、この小説を読めるようになっている。今回では新札幌に新設された北日本科学大学大学院で発生した爆弾事件の謎を追うことになった沢村依理子。前回の事件の後沢村は道警本部警務部付きに異動になっていたが、爆弾事件が発生したことにより、捜査一課に助っ人として配属されることになった。爆弾は学長あての荷物が放置されていたという連絡を受けた秘書が学長室に運んだところで爆発し、秘書の女性は爆発に巻き込まれて死亡した。状況を考えると、秘書を狙った犯行というよりも学長を狙った犯行だろうという事が想像されるが、事件の背景や犯人像は不明で、爆弾テロも想定されることから、捜査本部は公安が取り仕切ることとなり、左翼系の組織に対して捜査をすることになった。一方、捜査課は特命捜査チームを作り、別な観点から犯人を捜査することになり、その班長には沢村がつくことになった。

この大学院大学の学長が桐生真という女性の数学者で、だからこのタイトルなのかと思いきや、桐生真はこの小説ではあまり登場しない。だから、彼女が「数学の女王」ではなさそうだというのは割とすぐわかる。そうなると、そこから何となく先が読めてしまうのがちょっとこのタイトルは失敗なのではないかと思った。今回の小説では新しい組織でいきなり捜査指揮を執ることになるという状況にある沢村がどのように犯人に迫っていくのかというのがストリーの肝だろう。何者かが特命捜査チームの動きを探っているような兆候もあったり、犯人にはすんなり辿り着けなさそうな状況をどう乗り越えていくかがストーリーの山場だ。

前作では「弌英大学」という大学がよくわからないという感想を持った。今作にも大学時代の回想がいくつかあったが、大学の名前自体は出てこなかった。