隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

我が友、スミス

石田夏穂氏の我が友、スミス を読んだ。スミスとは何ぞやというと、筋トレマシーンのようだ。バーベルの左右にレールがついているので、その軌道でしか動かなく、安全にトレーニングできるという。多分持ち上げられなくなったときに、ふらつかないことがメリットなのだと思う。この小説(というにはちょっと独特の文体だが)は筋トレ小説なのだ。しかも、これは神話の法則に則ったストーリー展開になっている。

U野はアラサーの女で、Gジムで黙々と筋トレに励んでいたところを元ボディビル選手のO島に誘われて、彼女が新設したNジムに移った。そして、そこのジムでボディービルダーの大会を目指して、ストイックにトレーニングするのだ。なぜU野が筋トレを始めたのかは自分でも最初はよくわかっていなかったが、変わりたいからだというのが徐々に自分の中で形作られていく。女性のボディビルの大会は筋肉の付き方が重要ではあるが、それ以外の女性としての美しさも重要になる。今まで化粧気もなかったのに、髪を伸ばしたり、脱毛したり、ハイヒールを履きこなし、更には日焼けサロンに行ったりと、確かに今までの自分とは違う何かに変わっていった。そんな姿を見て、会社の同僚から、「女性は大変ですね」とか言われてしまう。その言葉がU野の頭に残ってしまう。

この作品は小説と言っても、ところどころ会話が挟み込まれるが、ほぼU野のモノローグで進んでいく独特の文体だ。だから彼女が何を考え、何を感じているかがストレートに表されている。変わりたいと思って始めた筋トレで、確かに大会に出る準備のため彼女は大幅に変わったが、このように変わりたかったのか?というのが物語の肝。この作品は神話の法則に則っているのでGジムに始まり、Nジムで修業を積み、Gジムで終わる物語になっている。短いけれど、何とも言えない味がある作品だった。