隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

純喫茶「一服堂」の四季

東川篤哉氏の純喫茶「一服堂」の四季を読んだ。本書は短編集で、4編収録されたおり、「春の十字架」、「もっとも猟奇的な夏」、「ひり取られた死体の秋」、「バラバラ死体と密室の冬」がそれぞれのタイトルだ。この作品は一服堂という純喫茶を父親から譲り受けた安楽あんらく椅子よりこが事件の謎を解決するのが共通のパターンとなっているが、この名前の通り、彼女は安楽椅子探偵なのだ。喫茶店を経営しているものの、超人見知りで、接客もままならず、喫茶店は閑古鳥が鳴いているという設定になっていて、そこにたまたま訪れた客が遭遇した猟奇的な殺人事件を、話を聞くだけの安楽椅子探偵の椅子が鋭い推理によって解決する。今回の作品の特徴と言えば、どの事件も猟奇的な事件で、1話目と2話目は十字架に被害者が括り付けられていたり、3話目と4話目は死体損壊事件になっている。当然なぜ犯人はそのような事をする必要があったのかという事をちゃんと説明できるような推理になっている。それと4話目はメインの推理以外にも物語の構成に仕掛けがあって、すっかり騙されてしまった。3話目の終わり方と4話目の始まり方なので、まさかそんなことになっているとは言うのが、正直な感想だ。それと更に4話目だが、厳密な推理の検証をしてはいけないのだろうが、ネタバレになるので詳細は書かないが、ちょっと実行するのには無理があるような気がする。

二人の嘘

一雫ライオン氏の 二人の嘘を読んだ。この本は北上次郎氏が本の雑誌で紹介していて、「目が離せない」、「前三作を急いで買ってきて、これから読むところである」と書いていたので、気になった本だ。

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片陵礼子が以前判決を起案して、実刑を受けた元受刑者が、東京地裁の門の所に朝来ているという話を耳にする。つまり、判決内容に納得できず、糾弾してくる人たちの一人ではないかというのだ。しかし、実際本人を目にすると、糾弾しているような感じではい。礼子はその男蛭間隆也がなぜそのような事をしているのか気になりだし、更に過去の裁判に何か間違いがあったのではと思い、当時の記録を調べるのだが、間違いは見つけられなかった。ここから彼女の漂流が始まる。片陵礼子は東大在学中に司法試験に合格し、判事になった。たぐいまれな美貌の持ち主で、成績もトップで、10年に一人の逸材と言われている。裁判官として任官されるとほぼ同時に司法修生時代の同期で弁護士の男と結婚し、夫の両親に彼らの家の近くの荻窪に豪邸を立ててもらい棲んでいる。何不自由ない暮らしに見えるが、彼女の心には瑕があった。八歳の時に母親に捨てられたのだ。その後は伯母に引き取られて育てられた。

北上氏も本の紹介ではこの小説がどんなジャンルの小説か書いていない。読みだして、ある種の冤罪にかかわるミステリ調の小説なのかと思いながら読み進めた。しかし、三分の一に差し掛かった辺りから、その予想は大きく裏切られる。確かに、元受刑者の蛭間に何があったのかというのは物語の重要なファクターではあるが、実際には片陵礼子のどうしても埋められない心の穴についての物語なのだろうと思った。これ以上はネタバレになるかもしれないが、プロローグからして、この物語がハッピーエンドで終わるとは思えないことは示されている。読後も心のザワツキがなんとなく収まらない。このような物語になるとは、最初の部分からは想像もできなかった。