隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

5まで数える

松崎有理氏の5まで数えるを読んだ。本作は短編集で、表題作の他に、「たとえわれ命死ぬとも」、「やつはアル・クシガイだ 疑似科学バスターズ」、「バスターズ・ライジング」、「砂漠」、「超耐水性日焼け止め開発の顛末」の6作が収められている。著者は2010年に創元SF短編賞を受賞したと巻末の著者紹介の所に書いてあるので、作品はSFに入るのだろうが、この作品集はそんなに科学成分は強くないので、一般の人にも読みやすいかもしれない。

「たとえわれ命死ぬとも」は何とも言えない不思議な味を出している。その世界では極端な動物愛護のために、動物実験が国際的に禁止されていた。しかし、医学の進歩のためには実際に実験をしなければわからないこともあり、そのためにその世界では実験医という職業があった。実験医は、自らの身体を使って人体実験をしているのだ。そして、その世界では謎の奇病である彗星病が50年周期で流行していた。人以外に宿主なし、小児における致死率6割。飛沫感染することはわかっているが、病原体はいまだに捉えられてない。発病すると、高熱と赤い斑点が体に浮かんでくる。大良は子供の時に妹が彗星病で亡くなっていた。そのため、いつか医者になり、彗星病を根絶することを目標に、実験医になった。かれは彼の同僚と彼自身を犠牲にして、彗星病のワクチン作りに取り組むのだが、同僚は一人また一人と亡くなっていくのだった。そして、もう人体実験はできないと考えた彼がとった手は、起死回生の一手ではあったのであるが…。大良は何とかしてワクチンの作製に成功するのであるが、何とも言えない結末がいい。

表題作の「5まで数える」も興味深い。この短編の主人公の少年は「失算症」という病気を患っているのだが、これは著者による架空の病気だろうと思って、最後まで読んだのだが、wikipediaによると、ゲルストマン症候群 - Wikipediaという実際の病気があるようだ。

精霊の箱 チューリングマシンをめぐる冒険

川添愛氏の精霊の箱 チューリングマシンをめぐる冒険を読んだ。これは白と黒のとびらの続編で、前作の登場人物が今作でも登場し、あたらな人物も登場してくる。今回のテーマはチューリングマシーンとなっているが、最後の所では暗号の話題も取り上げられている。

ガレットは塔の守り手となり、魔術師となったが、相変わらず師匠のアルドウィンから厳しく指導を受けていた。そんなガレットが、色々な事件に巻き込まれるうちに、クージュの魂がガレットの手の中に吸い込まれてしまった。クージュの魂は本来は浄罪界に属していたものであるが、失われて九百年も経ち、魔術師たちはずっと探していたのだった。一方、学術院の院長のファウマン卿はユフィンやヴィエンに何やら不思議な装置設計を依頼しており、実はファウマン卿の依頼はユフィンやヴィエンだけではなく、他の若い学者にもされていた。それは、ファウマン家の長年の悲願を達成するために装置なのであった。

今作は、上巻と下巻とに分かれていて、ストーリーとしてはかなり長くなっているが、前作がどちらかというと、オートマトンを説明しるためにストーリをひねり出したような印象だったのに比べ、今回は十分な紙幅があるので、ストーリが主で、そこにチューリーンぐマシーンなどの動作・説明をうまくあてはめたような印象を受けた。そのため、今回の方がストリーとしては格段に面白くなっている。今回はあとがきがついているのが、それによると最初から続編の執筆は予定していたのだとか。そうであれば、第一作目はちょっと詰め込み過ぎだったのではないかと思えてくる。