隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

SF

奏で手のヌフレツン

酉島伝法氏の奏で手のヌフレツンを読んだ。ちょっと形容しがたい作品だ。我々とは似て非なる世界が舞台のSFなのだが、単に世界というより違う宇宙の物語ととらえた方がいいのかもしれない。我々が知っているような原理はこの宇宙には適応できないような気が…

時間旅行者のキャンディボックス

ケイト・マスカレナスの時間旅行者のキャンディボックス (原題 THE PSYCHOLOGY OF TIME TRAVEL) を読んだ。1967年12月、イギリスの4人の科学者がタイムマシンを完成させた。その科学者とは、宇宙物理学者のマーガレット・ノートン、電波の研究者のルシール・…

標本作家

小川楽喜氏の標本作家を読んだ。何と表現したらいいのかわからない不思議な小説だ。色々なストーリーが詰め込まれていて、ちょっと整理しないとなかなか理解が追い付かず、これは読みにくい小説なのではないかと思った。読み終わった後も、これをどのように…

法治の獣

春暮康一氏の法治の獣を読んだ。本書は短編集で、「主観者」、「法治の獣」、「方舟は荒野をわたる」の3編が収録されている。どの作品も人類と異星に生息する生命体との接触(異星生命体にとっては多分ファーストコンタクトであろうが、人類から見た場合それ…

回樹

斜線堂有紀氏の回樹を読んだ。巻末の初出一覧によると2021年から2022年にかけてSFマガジンに掲載されたものと書下ろし1編が本書には収録されている。全部で6編からからなる短編集である。収録作品は「回樹」、「骨刻」、「BTTF葬送」、「不滅」、「奈辺」、…

ガーンズバック変換

陸秋槎氏のガーンズバック変換を読んだ。早川書房から出版されていて、「著者初のSF作品集」という事にはなっているが、そんなにハードなSF作品ではない。収録されているのは、「サンクチュアリ」、「物語の歌い手」、「三つの演奏会用練習曲」、「開かれた…

AI法廷のハッカー弁護士

竹田人造 氏のAI法廷のハッカー弁護士を読んだ。読む前はミステリー寄りの作品かと思っていたのだが、実際にはSF寄りの小説だった。「あかさたな」とは何なのかという大きな謎が4つの短編にわたって存在しているが、理詰めで解けるようなものではなし、ミス…

時空犯

潮谷験氏の時空犯を読んだ。この作品も特殊設定ミステリーで、2018年6月1日が980回以上繰り返し怒っている世界での物語だ。物語は探偵の姫崎智弘の元に、、情報工学の権威である北神伊織博士から、破格の報酬である1千万円の依頼が来たところから始まる。博…

走馬灯のセトリは考えておいて

柴田勝家氏の走馬灯のセトリは考えておいてを読んだ。本書はSF短編集で「オンライン福男」、「クランツマンの秘仏」、「絶滅の作法」、「火星環境下における宗教性原虫の適応と分布」、「姫日記」、「走馬灯のセトリは考えておいて」の6編。「オンライン福男…

サーキット・スィッチャー

安野貴博氏のサーキット・スィッチャーを読んだ。本書は第9回ハヤカワSFコンテストの優秀賞受賞作だ。物語の時代設定は2029年で、近未来という事になる。その時代にはレベル5の完全自動運転が実用化されており、その自動運転のアルゴリズムの開発ベンチャー…

ロボットには尻尾がない

ヘンリー・カットナーの ロボットには尻尾がない (原題 Robots Have No Tails)を読んだ。アル中の発明家ギャロウェイ・ギャラガーが酔っ払っている時にとてつもないものを発明して、それにまつわるトラブルに悩まされるというSF調のドタバトコメディー。ギャ…

まぜるな危険

高野史緒氏のまぜるな危険を読んだ。本書は短編集で、「アントンと清姫」、「百万本の薔薇」、「小ねずみと童貞と復活した女」、「プシホロギーチェスキー・テスト」、「桜の園のリディヤ」、「ドグラートフ・マグラノフスキー」の6編が収録されている。本書…

感応グラン=ギニョル

空木春宵氏の感応グラン=ギニョルを読んだ。本書は短編集で、「感応グラン=ギニョル」、「地獄を縫い取る」、「メタモルフォシスの龍」、「徒花物語」、「Rampo Sicks」の5編が収録されている。これらの作品群は非常に昏い、ダークなイメージをまとっていて…

統計外事態

芝村裕吏氏の統計外事態を読んだ。 統計外事態という文字列を見て、どういう風に区切るのかちょっとよくわからなかった。知っている単語で見ていくと、「統計」「外事」「態」だ。そうすると、これは/統計/外事/態/と区切るのかとも思えるのだが、それだと意…

三体III 死神永生

劉慈欣氏の三体III 死神永生を読んだ。三体シリーズの最終巻だが、2巻目の最後があのような形で終わって、一体どいう展開になるのだろうと思って読み始めたのだが、最初に「時の外の過去」の部分があって、これも何かの仕掛けなのだろうと読み、その次がいき…

宇宙の春

ケン リュウの宇宙の春を読んだ。本書は短編集だが、アメリカで出版された本を翻訳したというわけではなく、日本で収録作品を選定して出版したオリジナルの短編集のようだ。収録作品は「宇宙の春」、「マクスウェルの悪魔」、「ブックサイヴァ」、「思いと祈…

7分間SF

草上仁氏の7分間SFを読んだ。本書はSF短編小説で、11編収められている。90年代の作品が4作、00年代の作品が6作で、書下ろしが1作という割合。コメディタッチだったり、ブラックユーモアたっだり色々多彩な作品が収められている。5分間SFと比べると、ページ数…

アメリカン・ブッダ

柴田勝家氏のアメリカン・ブッダを読んだ。柴田氏の小説は単なるSFというよりも、観念的なSFだと読むたびに感じる。本書は短編集で、「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」、「鏡石異譚」、「邪義の壁」、「一八九七年:龍動幕の内」、「検疫官」、「アメ…

三体Ⅱ 黒暗森林

劉慈欣氏の三体Ⅱ 黒暗森林を読んだ。タイトルをパット見て、「暗黒…」だと思い込んでいたが、よく見たら「黒暗…」だった。三体Ⅱ では三体人が地球に侵略することが明らかになった世界で、「危機紀」という新たな紀年が定義されている世界になっている。国連…

嘘と正典

小川哲氏の嘘と正典を読んだ。本書は短編集で、「魔術師」、「ひとすじの光」、「時の扉」、「ムジカ・ムンダーナ」、「最後の不良」、「嘘と正典」の6編が収められている。巻末の初出一覧を見ると、最初の4編がSFマガジンで、「最後の不良」がPen、「嘘と正…

流れよわが涙、と孔明は言った

三方行成氏の流れよわが涙、と孔明は言ったを読んだ。本書はSF短編集で表題作の「流れよわが涙、と孔明は言った」、「折り紙食堂」、「走れメデス」、「闇」、「竜とダイアモンド」の5編が収められている。表題作は明らかにディックの「流れよ我が涙と、警官…

なめらかな世界と、その敵

伴名練氏のなめらかな世界と、その敵を読んだ。本書はSF短編集で、「なめらかな世界と、その敵」、「ゼロ年代の臨界点」、「美亜羽へ贈る拳銃」、「ホーリーアイアンメイデン」、「シンギュラリティ・ソヴィエト」、「ひかりより速く、ゆるやかに」の6編が収…

時空旅行者の砂時計

方丈貴恵氏の時空旅行者の砂時計を読んだ。本作は第29回鮎川哲也賞を受賞した作品で、SF+ミステリーの構成をとっている。SFのところは主人公で探偵役となる加茂冬馬が不思議な声にいざなわれて過去の世界にタイムスリップするところなのだが、実はミステリー…

5分間SF

草上仁氏の5分間SFを読んだ。たぶん1980年代後半から1990年代の前半ぐらいには草上仁氏の作品をよく読んでいた気がする。軽いタッチのSF短編を量産していて、SFマガジンにもよく掲載されていたと記憶しているし、文庫本も早川書房から多数出ていたと記憶して…

さよならの儀式

宮部みゆき氏のさよならの儀式を読んだ。著者初のSF短編ということで、興味を持ったので、読んでみた。宮部みゆき氏というとやはりミステリー作家という印象がある。収録作品は8編。「母の法律」、「戦闘員」、「わたしとワタシ」、「さよならの儀式」、「星…

ランドスケープと夏の定理

高島雄哉氏のランドスケープと夏の定理を読んだ。姉のテアは12歳で故郷のグリーンランドを離れ、日本の大学に進んだ。17歳で宇宙物理学の博士号を取得する前に助教になった。というのも極めて優秀で、様々な理論を発表し、そして、22歳で教授になった。だが…

三体

劉慈欣氏の三体を読んだ。各方面で話題になっているので読んでみたが、確かにこれは読みやすいし、面白い。翻訳なのに読みやすいのは、訳者の一人である大森望氏の貢献なのだろうと感じた。翻訳の経緯に関しては訳者あとがきで書かれていて、その部分も興味…

スペース金融道

宮内悠介氏のスペース金融道を読んだ。これも「超動く家」のようなバカSF的なところがある、コメディタッチのSFだ。人類が最初に植民に成功した惑星。だから(でもなぜか)二番街と呼ばれている惑星。その惑星にある新星金融。借りる人には誰でも貸す。アンド…

巨神降臨

シルヴァン・ヌーヴェルの巨神降臨を読んだ。本作は巨神計画から続いてきた巨神シリーズ三部作の最終巻だ。前回、EDCのメンバーが突然巨神テーミスとともに宇宙に放り出されたところで終わって、「いったいどうストリーが続くのだろう?次巻は第一巻と第二巻…

郝景芳短篇集

郝景芳短篇集(原題 孤独深处)読んだ。「折りたたみ北京」でヒューゴ賞を受賞した郝景芳の短編集だ。ただ、「折りたたみ北京」はケン・リュウの英訳からの日本語訳というややこしい関係になっているが、本短編集に収録されているのは中国語から日本語の翻訳と…