隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

郝景芳短篇集

郝景芳短篇集(原題 孤独深处)読んだ。「折りたたみ北京」でヒューゴ賞を受賞した郝景芳の短編集だ。ただ、「折りたたみ北京」はケン・リュウの英訳からの日本語訳というややこしい関係になっているが、本短編集に収録されているのは中国語から日本語の翻訳となっており、タイトルも微妙に変わっている。

本書は短編集で、収録作は「北京 折りたたみの都市」、「弦の調べ」、「繁華を慕って」、「生死の間」、「山奥の療養所」、「孤独な病室」、「先延ばし症候群」の7編だ。この中でSF的なのは前半の4編の方だろうというのが、読後の印象。

「弦の調べ」、「繁華を慕って」が対になっていて面白いと思った。鋼鉄人という金属に覆われた謎の異星人に襲撃されている世界での話。鋼鉄人は虐殺はせず、ピンポイントで軍事施設・武装勢力を攻撃してくる。そして、奇妙なことに文化的なものや芸術劇なものは攻撃されなかった。そのため芸術公演団体が防衛の任務を負わされることになっていた。鋼鉄人は抵抗軍に対しては容赦のない攻撃を仕掛けるが、科学・芸術・歴史に関する団体には寛容に接し、シャングリラへの移住も許した。音楽家の林先生は抵抗者で、鋼鉄人の基地のある月を破壊する計画を立てていた。その手伝いをする陳君。陳君の妻阿玖はイギリスで音楽家をしており、林先生の月破壊作戦に加わることになる。「弦の調べ」は陳君の視点から、「繁華を慕って」は阿玖の視点から描かれており、なぜ阿玖がこの作戦に加わったのかの理由が明らかにされる。

この月を破壊するのに、軌道エレベータを使うのだ。起動エレベーターを振動させて、共振させて月を破壊するのだが、その説明として、以下のような文章が書かれている。

斉躍は宇宙エレベータの制御部分に近づくことができると言い、こう語った。かつての実験室は地球と月の合同実験室で、月の実験センターを遠隔制御して核融合ブラックホール実験、宇宙線の観測実験ができるので、現在鋼鉄人によって制御が断たれているが、彼らのセンターはまだ地上からエレベータに接近する権利を持っている。

最初読んだときにはなんだかよくわからなかった。何度か読んでみたがやはり理解できなかった。地球と月の間は真空なので音は伝わらない。この点がどのように解決されるのか結局よくわからずじまいだ。この点がこの作品の欠点であろう。