隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

往来絵巻 貸本屋おせん

高瀬乃一氏の往来絵巻 貸本屋おせんを読んだ。本作はデビュー作の貸本屋おせんの続編。「らくがき落首」、「往来絵巻」、「まさかの身投げ」、「みつぞろえ」、「道楽本屋」の5編が収録されている。前作も謎解きの要素はあったと思うが、今作はどれもその色…

月とアマリリス

町田そのこ氏の月とアマリリスを読んだ。2月26日(水)2025年のベスト1 町田そのこ『月とアマリリス』 - 帰ってきた炎の営業日誌|WEB本の雑誌に「なにせあの町田そのこが、ミステリを書いたのだ」と書かれていて興味を持った。以前読んだのは宙ご飯で…

帝国妖人伝

伊吹亜門氏の帝国妖人伝を読んだ。那珂川二坊という作家を狂言回しにして、明治から昭和の第二次世界大戦終了時までの間に彼が遭遇した殺人事件が連作短編のミステリとして収録されている。収録作品は「長くなだらかな坂」、「法螺吹峠の殺人」、「攻撃!ア…

トラスト―絆/わが人生/追憶の記/未来―

エルナン・ディアズのトラスト―絆/わが人生/追憶の記/未来―を読んだ。この小説はハロルド・ヴァナーの「絆」、アンドルー・ベヴルの「わが人生」、アイダ・パルテンツァの「追憶の記」、ミルドレッド・ベヴルの「未来」の4編から構成されている。もちろんこ…

「腸と脳」の科学 脳と体を整える、腸の知られざるはたらき

坪井貴司氏の「腸と脳」の科学 脳と体を整える、腸の知られざるはたらきを読んだ。緊張とか不安なことがあるとお腹が痛くなったり、下痢をしたりということが子供の頃はよくあった。一方、胃とか腸などは脳が直接制御しなくても、24時間自律的に動いでいる筈…

キネマ探偵カレイドミステリー 会縁奇縁のリエナクトメント

斜線堂有紀氏のキネマ探偵カレイドミステリー 会縁奇縁のリエナクトメントを読んだ。本シリーズは3部作で終了していたと思っていた。少なくとも引きこもっていた嗄井戸の物語は一応の決着が着いていたはずだ。しかし、著者のあとがきによると相棒である奈緒…

不夜島(ナイトランド)

荻堂顕氏の不夜島を読んだ。歴史改変サイバーパンク小説が本書を一口で言い表すのに適切だろう。時代は第二次世界大戦後で、主な舞台は与那国島と台湾だ。アメリカ軍の軍政下にある与那国島には台湾から渡ってきた密貿易の仲介人が住み着き巨大なマーケット…

ローマ史再考: なぜ「首都」コンスタンティノープルが生まれたのか

田中創氏のローマ史再考: なぜ「首都」コンスタンティノープルが生まれたのかを読んだ。以前ヨーロッパ史 拡大と統合の力学 - 隠居日録を読んだときに、以下の内容に少なからず驚きを覚えた。 当時の人々は「西ローマ帝国滅亡という感覚を持ち合わせていなか…

対馬の海に沈む

窪田新之助氏の対馬の海に沈むを読んだ。この本は2019年に2月にJA対馬の男性職員が海に自動車で転落した事件の背後に何があったかを取材したノンフィクションだ。後にJA対馬はこの男性職員によって約7億円の不正流用があったと発表した。事故を起こしたとき…

ソーンダーズ先生の小説教室 ロシア文学に学ぶ書くこと、読むこと、生きること

ジョージ・ソーンダーズの ソーンダーズ先生の小説教室 ロシア文学に学ぶ書くこと、読むこと、生きること (原題 A SWIM IN A POND IN THE RAIN: In Which Four Russians Give a Master Class on Writing, Reading, and Life)を読んだ。大学教授でもあり作家…

ダーウィンの呪い

千葉聡氏のダーウィンの呪いを読んだ。この本のタイトルからどういう内容を思い浮かぶだろうか?ダーウィンが意図して呪をかけていたわけではないだろうから、我々がダーウィンの言葉を勝手に解釈して、それを奇妙な思考の枠に嵌めて、考えをゆがめていると…

カーテンコール

筒井康隆氏のカーテンコールを読んだ。出版されたのが2023年で、2020年以降に発表された25編のショートショートを収録している。わかりやすい落ちがあるもの(本質」とか「美食禍」など)から意味がよくわからない者(「山号寺号」)まで、色々収録されている。…

谷間の強制収容所

ヴェンデルガルト・フォン・シュターデンの谷間の強制収容所 (原題 Nacht über dem Tal Eine Jugend in Deutschland)を読んだ。先日NHK BSを見ていたら「独・うちの敷地には強制収容所があった」というタイトルの海外制作のドキュメンタリ番組があり、「敷地…

禁忌の子

山口未桜氏の禁忌の子を読んだ。本作は物語の出だしが落語の粗忽長屋のような展開から始まるミステリーだ。救急病院に担ぎ込まれた身元不明の溺死死体の男性が担当の救急医と瓜二つだった。「患者の死亡を確認したのは確かに俺だが、死亡確認された俺はいっ…

暗号の子

宮内悠介氏の暗号の子を読んだ。本書は短編集だが、表題作に「暗号」という語句がついているのでミステリー的な作品かと思っていたのだが、この暗号は「暗号通貨」という文脈での暗号で、メッセージを他人に分からないように伝える方の暗号ではなかった。収…

沈没船で眠りたい

新馬場新氏の沈没船で眠りたいを読んだ。本書は今から20年ぐらい未来を舞台にしたSF小説である。この本の中で繰り返される主題であるテセウスの船を人体と義体に当てはめて、どこまで機械に置き換えたら自分のままなのかというテーマに結びついていく。この…

デジタル時代の恐竜学

河部壮一郎氏のデジタル時代の恐竜学を読んだ。恐竜の研究というと化石を調べるということが重要な部分を占めているが、近年はコンピュータを使うことにより、様々な方法で化石を数値化できるようになっている。更に数値化したデータを現存する生物と比較す…

ブレイクショットの軌跡

逢坂冬馬氏のブレイクショットの軌跡を読んだ。過去2作品が第二次世界大戦を舞台にした小説だったが、今回は現代の日本が舞台になっている(章と章の間にアフリカのホワイトハウスという物語が挟み込まれていて、これは中央アフリカという国が舞台にはなって…

量子超越: 量子コンピュータが世界を変える

ミチオ・カクの量子超越: 量子コンピュータが世界を変える (原題 QUANTUM SUPREMACY)を読んだ。近年量子コンピュータに関する発表があり、何となく成果が出てきているような印象を受けている。しかし、量子コンピュータの仕組みとか、どのような計算している…

ユビキタス

鈴木光司氏のユビキタスを読んだ。鈴木光司氏と言えば、リング・らせん、そしてループだろう。その昔私も読んだ。リングのインパクトはあまりにも大きく、その後多数の続編映画やハリウッド版の映画まで作られて、大ヒットした。らせんも映画化されているが…

パンとペンの事件簿

柳広司氏のパンとペンの事件簿を読んだ。ミステリーだと思って読んだのだが、それほどミステリーでもなかった。物語の時代は大正の頃で、ヤクザものに袋叩きにあい、路地裏に打ち捨てられていた僕を救ってくれたのが売文社の面々だった。行く宛てをなくして…

三度目のu-boot

freebsd-armのメーリングリストを見ていたら、こんなメールが送られていた。 Using loader to switch kernel and root device on Pi2 彼曰く、SDカードのDOSパーティションにbootcode.binだけを入れておくと、USBディスクからブートするというのだ。いままで…

アラバスターの手: マンビー古書怪談集

アラン・ノエル・ラティマ・マンビーのアラバスターの手: マンビー古書怪談集(The Alabaster Hand and Other Ghost Story)を読んだ。前書きに「収容所で1943年から1945年にかけて執筆したものだ」と書かれていて、「何の収容所だろう?」とまず疑問に思った…

がんばっていきまっしょい

敷村良子氏のがんばっていきまっしょいを読んだ。この小説が2025年2月10日のNHK第一のラジオ深夜便内のラジオ文芸館で放送された。録音したのを聞いたのだが、どうも頭に入ってこない。最近ながら聞きをしていると、頭に残らず最後まで聞いても、全然理解が…

図書館の魔女 高い塔の童心

高田大介氏の図書館の魔女 高い塔の童心を読んだ。このシリーズの続きが出るとは思っていなかった。以前に読んだのは2017年なのでもう8年も前であることに驚いた。以前は600ページを超える長さで、しかも最初の巻は上下に分かれていたので、合わせると1000ペ…

女たちの平安後期―紫式部から源平までの200年

榎村寛之氏の女たちの平安後期―紫式部から源平までの200年を読んだ。本書は平安時代後半200年について解説した新書である。歴史的には道長による摂関政治の完成から院政、そして源平争乱へとつながり、時代は武士の時代になる激動の時代だ。本書は当然そのよ…

WAR 3つの戦争

ボブ・ウッドワードのWAR 3つの戦争 (原題 WAR)を読んだ。英語の原題はWARだけだが、日本語のタイトルはわかりやすく「3つの」をつけたようだ。本書はアメリカの第46代大統領ジョー・バイデンが巻き込まれた3つの戦争を通じて、バイデン政権がどのようにそ…

ミステリ・トランスミッター 謎解きはメッセージの中に

斜線堂有紀氏のミステリ・トランスミッター 謎解きはメッセージの中にを読んだ。本書は短編集で、「ある女王の死」、「妹の夫」、「雌雄七色」、「ワイズガイによろしく」、「ゴールデンレコード収録物選定会議予選委員会」の5編。「謎解きはメッセージの中…

トライロバレット

佐藤究氏のトライロバレットを読んだ。トライロバレットとというのは聞きなじみのない言葉であるが、それもその筈で、これは作者による造語だ。この言葉はトライロバイト(trilobite 三葉虫)とビュレット (bullet 弾丸)の合成語だからだ。なぜ三葉虫が出てく…

バベル オックスフォード翻訳家革命秘史

レベッカ・F・クァンのバベル オックスフォード翻訳家革命秘史 (原題 BABEL, OR, THE NECESSITY OF VIOLENCE: An Arcane History of the Oxford Translators' Revolution)を読んだ。あらすじには「広東から連れてこられた中国人少年ロビン」というようにサラ…