隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

夜に星を放つ

窪美澄氏の夜に星を放つを読んだ。星に関係する小説だと思ったので読んだのだが、直接的には星には関係なく、各話に星にまつわることが織り込まれている短編集だった。収録されているのは「真夜中のアボカド」、「銀紙色のアンタレス」、「真珠星スピカ」、「湿りの海、」、「星の随に」。「湿りの海」は「星に関連するエピソードがない」と思ったのだが、作中にも絵のタイトルとして登場する「湿りの海」が月の裏側にある月の海の名前で、月に関係があった。月にそのような場所があるとは知らなかった。

全体的にうまくいかない人間関係のようなものを描いている短編集で、ハッピーエンドで終わるようなストーリーはない。唯一「真珠星スピカ」だけが主人公のみちるへの苛めが収束したようで、父親ともいい関係で終わっている。この短編集の中では一番ほっとする話だった。何せそれ以外はちょっと切ないストーリーになっているからだ。

収録順序が発表順とは異なっていて、最初の「真夜中のアボカド」はコロナ以降の物語だが、「銀紙色のアンタレス」から「湿りの海」まではコロナ以前の作品で、また最後の「星の随に」がコロナ以降の作品。最初から順番に読むと、「あれ?」という感じがした。物語のなかに時代を織り込むと、今はまださほど違和感がないだろうが、5年10年経つと、奇妙な感じが増すだろうなと思った。