隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

ミステリー

都筑道夫創訳ミステリ集成

都筑道夫氏の都筑道夫創訳ミステリ集成を読んだ。「創訳」という聞きなれない言葉がタイトルに入っているが、一昔前(すでに二昔ぐらい前か?)なら超訳とい言葉が使われていたことを覚えている人もいるだろう。この本に収録されているのは児童向けに翻訳した…

あなたには、殺せません

石持浅海氏のあなたには、殺せませんを読んだ。本作は短編連作倒叙ミステリーで、犯罪予備者の駆け込み寺とうわさされるNPOが舞台になっている。そこの1番の相談室は殺人を考えてる犯罪予備者に割り当てられていて、相談員が誰をなぜ殺したいのかを聞く。そ…

ちぎれた鎖と光の切れ端

荒木あかね氏のちぎれた鎖と光の切れ端を読んだ。本書は二部構成になっていて、第一部は倒叙的な記述になっており、友人グループで孤島のコテージに宿泊するメンバーの中に、仲間を殺そうとしている男が紛れ込んでいるというストーリーになっている。その男…

不実在探偵の推理

井上悠宇氏の不実在探偵の推理を読んだ。これを最初に読んだときは、この小説も特殊設定もののミステリーだと思った。この小説の特徴はタイトルにもある通り、探偵が不実在なのだ。どいう事かというと、大学生の菊理現が黒い箱の中にあるダイスを見て、質問…

時計泥棒と悪人たち

夕木春央氏の時計泥棒と悪人たちを読んだ。この本は長編小説だろうと思っていたのだが、実は連作短編小説だった。タイトルにある時計泥棒の2人組が色々な謎を解くストリーになっている。収録作品は「加右衛門氏の美術館」、「悪人一家の密室」、「誘拐と大雪…

可燃物

米澤穂信氏の可燃物を読んだ。本書は群馬県警の捜査一課葛警部が主人公の連作短編ミステリーだ。収録作は「崖の下」、「ねむけ」、「命の恩」、「可燃物」、「本物か」の5編。葛が部下の集めてきた情報をもとに事件を組み立てるのだが、何か引っかかりを覚え…

動くはずのない死体

森川智喜氏の動くはずのない死体を読んだ。これは短編ミステリーで、「幸せという小鳥たち、希望という鳴き声」、「フーダニット・リセプション 名探偵粍島桁郎、虫に食われる」、「動くはずのない死体」、「悪運が来りて笛を吹く」、「ロックトルーム・ブギ…

27000冊ガーデン

大崎梢氏の27000冊ガーデンを読んだ。本書は高校の学校司書を主人公にした日常のミステリだ。27000冊というのは大体高校の図書室(本書の中では一貫して図書館と呼んでいるが、独立した建物ではないので図書館と呼ぶのはちょっと奇妙に感じた)にある本の冊数…

レモンと殺人鬼

くわがきあゆ氏のレモンと殺人鬼を読んだ。本書はミステリーというよりはサスペンスなのだろう。小林美桜は妹の妃奈が遺体で発見されたことを警察に告げられた。しかも妹は全身を数十カ所刺されて殺されたらしい。美桜にとっては家族が殺されたのはこれで2度…

エレファントヘッド

白井智之氏のエレファントヘッドを読んだ。本書は特殊設定のミステリーなのだが、その設定というのがちょっと予想もしないものだった。ネタバレ厳禁となっているので、書くのがはばかられる。プロローグで文哉という妄想症の精神病患者が出てきたので、そこ…

木曜組曲

恩田陸氏の木曜組曲を読んだ。耽美派小説の大家重松時子は木曜日が好きだと言っていた。その時子は2月の第二週の木曜日に亡くなり、それ以来毎年その木曜日を挟んで3日間、時子をしのぶために時子が住んでいたうぐいす館に集う女たち。時子の異母姉妹の静子…

私雨邸の殺人に関する各人の視点

渡辺優氏の私雨邸の殺人に関する各人の視点を読んだ。クローズドサーキット物で、土砂崩れで隔絶された山荘で起きる殺人事件のミステリーだ。ミステリー同好会の大学生が事件に巻き込まれて、謎解きに乗り出すというような、典型的な舞台設定のミステリーに…

君の教室が永遠の眠りにつくまで

鵺野莉紗氏の君の教室が永遠の眠りにつくまでを読んだ。本作は第42回横溝正史ミステリ&ホラー大賞の優秀賞受賞作だ。この作品も特殊設定の作品で、どのような特殊設定かを書いてしまうとネタバラシになるので書けない。舞台は北海道の不思子町で、そこに暮ら…

最後の鑑定人

岩井圭也氏の最後の鑑定人を読んだ。本書は民間の法科学鑑定会社を営む土門誠を主人公にしたミステリーだ。土門誠は警視庁の科捜研にいたがある事件の鑑定をきっかけに警視庁を辞め、土門鑑定事務所を立ち上げた。刑事・民事を問わず中立的な立場で科学鑑定…

揺籃の都

羽生飛鳥氏の揺籃の都を読んだ。これは蝶として死す - 隠居日録の第二作目で、今回の時間軸は治承4(11890)年の福原遷都の直後に巻き戻る。平頼盛は平清盛からある人探しを命じられた。それは源雅頼に仕える青侍で、この青侍が不吉な夢の噂を広めていることに…

サーカスから来た執達吏

夕木春央氏のサーカスから来た執達吏を読んだ。タイトルの「執達吏しったつり」という言葉になじみがなく、何のことかと調べてみると、執行官の古い言い方の様なのだが、この小説においては借金取りの事を指している。表紙絵の真ん中に描かれているのがそう…

五色の殺人者

千田理緒氏の五色の殺人者を読んだ。高齢者向けの介護施設で利用者の老人が撲殺された。後で判明するのだが、廊下を走る犯人と思れる人物の姿を部屋の中から目撃した人々の証言は異なっていたのだ。犯人の服の色は「赤」、「緑」、「白」、「黒」、「青」と…

答えは市役所3階に 2020心の相談室

辻堂ゆめ氏の答えは市役所3階に 2020心の相談室を読んだ。立倉市役所に「2020心の相談室」が開設され、晴川あかりと正木昭三が相談員として、悩み事や心理カウンセリングすることになった。時はまさにコロナが世に蔓延し始めたころで、みんなが精神…

風よ僕らの前髪を

弥生小夜子氏の「風よ僕らの前髪を」を読んだ。蝶の墓標が面白かったので、早速第一作目も読んでみた。この作品は第30回鮎川哲也賞優秀賞受賞作だ。若林悠希は伯母の高子からある事件の捜査の依頼を受けた。高子の夫で元弁護士の立原恭吾は朝早く犬の散歩中…

蝶の墓標

弥生小夜子氏の蝶の墓標を読んだ。本の表紙の裏のあらすじには、 数年前奇妙な自殺を遂げたかっての同級生の死の調査をする中で、 自殺した少年・要は夏野の痣の絵を描いたという理由でいじめを受け、それを苦に自殺を選んだと思われていた。 というようなこ…

話を戻そう

竹本健治氏の話を戻そうを読んだ。この小説はどのように形容してよいのか、また、どのような小説であるのか説明するのが難しい。物語は佐賀鍋島家十代藩主直正の別邸から始まる。ほどなくして、作者は物語の舞台である幕末の状況について鍋島家を中心に語っ…

キツネ狩り

寺嶌曜氏のキツネ狩りを読んだ。この作品は特殊設定ミステリーというか、サイコサスペンスというか、あまり分類する必要はないとは思うが、純粋な謎解きのミステリーではない。主人公は尾崎冴子という警察官で、3年前に婚約者とタンデムツーリングをしていた…

友が消えた夏 終わらない探偵物語

門前典之氏の友が消えた夏 終わらない探偵物語を読んだ。これはよくできた構成のミステリーだ。現在と過去が目まぐるしく交錯して、作者の目晦ましに見事はまってしまった。現在(2007年の夏)の時点では、ある手記をもとに探偵の蜘蛛手が過去に起きた演劇部部…

バールの正しい使い方

青本雪平氏のバールの正しい使い方を読んだ。小学生の要目礼恩は父親の都合で転校を繰り返していた。この物語は彼が転校先の学校で遭遇した事件に関するミステリーの連作小説になっている。収録されているのは「狼とカメレオン」、「タイムマシンとカメレオ…

老虎残夢

桃野雑派氏の老虎残夢を読んだ。本作は第67回江戸川乱歩賞受賞作で、読もうと思っていたのだが、何となく後回しになっていた。この小説は12世紀ごろの中国が舞台になっている。武侠小説 x 百合 x 特殊設定ミステリーという組み合わせの小説で、この作品を読…

言語の七番目の機能

ローラン・ビネの言語の七番目の機能(原題 La septième fonction du langage)を読んだ。ビネの第2作目の作品で、本書には実在の人物が多数登場する架空の物語だ。1980年、フランスの哲学者、記号学者、作家であるロラン・バルトが交通事故に遇い、病院に担ぎ…

数学の女王

伏尾美紀氏の数学の女王を読んだ。本作は北緯43度のコールドケース - 隠居日録の続編ではあるが、前作を読んでいなくても問題なく、この小説を読めるようになっている。今回では新札幌に新設された北日本科学大学大学院で発生した爆弾事件の謎を追うことにな…

七つの裏切り

ポール・ケインの七つの裏切り (原題 SEVEN SLAYERS)を読んだ。確か朝日新聞の書評で紹介されていて興味を持ったのが読もうと思ったきっかけだったと思う。驚かされる知略に満ちた「11文字の檻 青崎有吾短編集成」など村上貴史が薦める新刊文庫3点|好書…

栞と噓の季節

米澤穂信氏の栞と噓の季節を読んだ。これは本と鍵の季節の2作目なのだが、私は前巻の終わりで堀川と松倉の関係が微妙になってしまったので、この物語はシリーズにはならないだろうと思っていた。だが、2作目が出版された。そして今度は長編小説だ。松倉は暫…

名探偵のいけにえ: 人民教会殺人事件

白井智之氏の名探偵のいけにえ: 人民教会殺人事件を読んだ。本書と直接関係のないことから書き始めるが、先日「ペトラは静かに対峙する (原題 Petra)」という映画を見た。その後、filmarks.comのレヴューを見て、 cache.yahoofs.jp*1 「チェーホフの銃」とい…