隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

五色の殺人者

千田理緒氏の五色の殺人者を読んだ。高齢者向けの介護施設で利用者の老人が撲殺された。後で判明するのだが、廊下を走る犯人と思れる人物の姿を部屋の中から目撃した人々の証言は異なっていたのだ。犯人の服の色は「赤」、「緑」、「白」、「黒」、「青」と五通りというバラバラの証言が出てきた。そして、凶器もなぜか見つからなかったのだ。このミステリーの探偵役はこの介護施設で働く明治瑞希、通称メイと同僚の荒沼東子ハルコ通称ハルのコンビだ。ハルが秘かに心を寄せてる男性が有力な容疑者だとわかって、なんとか彼の無実を証明しようとメイを引き込んだのだった。

「 風よ僕らの前髪」が優秀作で、あの作品も十分楽しめたのだが、それを押さえてこちらが受賞作になっていて、何が結果の違いになったのかに興味が湧いて読んでみた。読んでみて、なぜこちらが受賞したのかは分かった。この作品ははっきりとしたミステリーになっているからだ。五通りの服の色が証言として出てきて、まずこれを納得する形で説明できなければストーリーが成り立たなし、この謎を見事に解決している。一方「 風よ僕らの前髪」がミステリーかと言うと、厳密には提示されていることからは推理できないので、鮎川哲也賞というミステリーの賞としてはふさわしくないのだろう。この作品は更に凶器消失という謎もあり、それもちゃんと推理できるようになっている。そこが違いなのだろう。