隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

答えは市役所3階に 2020心の相談室

辻堂ゆめ氏の答えは市役所3階に 2020心の相談室を読んだ。立倉市役所に「2020心の相談室」が開設され、晴川あかりと正木昭三が相談員として、悩み事や心理カウンセリングすることになった。時はまさにコロナが世に蔓延し始めたころで、みんなが精神的なストレスやそれによる不調を感じていた頃だ。この作品は連作の短編集で、晴川あかりと正木昭三がコロナに翻弄される各短編の登場人物の悩み事を聞いていく所がストーリの肝になっている。相談者である登場人物はちょっとだけ嘘をついたり、本当のことを言わなかったりするのだ。そして、最後の最後の所で、晴川あかりと正木昭三が今回の相談事を振り返りながら、「こういう風に言ってたけれど、実はこうなのではないでしょうか」と晴川あかりが謎解きをするところで、始めてミステリー的に謎解きストリーとなる。この部分がなかったら、普通の小説で終わってしまうような、日常の物語だ。実によくできている。しかも、本作は連作短編なので、各作品が少しつながっていたり、がっつりつながっていたりする。そこも楽しめるところだ。

本作で、晴川あかりは経験を積んだ臨床心理士で正木昭三が定年後に認定心理士の資格を取ったという設定になっている。この二つの違いがよくわからなかったが、調べてみると、認定心理士は、公益社団法人日本心理学会が認定する民間資格で、4年制の大学で修得した心理学系の単位を日本心理学会に申請することで取得できる。一方、臨床心理士の資格は、公益財団法人・日本臨床心理士資格認定協会が実施する資格審査(試験)に合格することで取得できると、全く別の組織が認定に関わっていて、前者は申請で、後者は試験に合格する必要があるという全く別物の資格だった。