隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

2024-01-01から1年間の記事一覧

資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか

ナンシー・フレイザーの資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか (原題 CANNIBAL CAPITALISM)を読んだ。著者は資本主義を共食い資本主義と名づけている。資本主義そのものがそれは他者を食い物にしてしか成り立たたないからだ。食い物にすると言うのは具体的…

嘘つき姫

坂崎かおる氏の嘘つき姫を読んだ。「嘘」と「百合」が全体を通しての共通したテーマのような感じがするが、必ずしもすべての作品がそれにぴったり当てはまるわけではない。それとSF的な作品もある。収録されているのは、「ニューヨークの魔女」、「ファーサ…

人狩人

長崎尚志氏の人狩人を読んだ。本のタイトルが本の内容の核心部分を表しているが、神奈川県に戦後から人狩りをしている連中がいたという架空の話がストーリーのメインの部分を占めている。物語は黒川という男の復讐の話、神奈川県警の桃井小百合巡査部長の話…

城割の作法: 一国一城への道程

福田千鶴氏の城割の作法: 一国一城への道程を読んだ。城割という言葉にはなじみがなかったが、この本のタイトルから多分城を破却することだろうという想像は付いた。著者によると城を壊す作法には「破るわる」と「捨るたたむ・畳むたたむ」の違いがあり、そ…

歌われなかった海賊へ

逢坂冬馬氏の歌われなかった海賊へを読んだ。メインの部分は第二次世界大戦末期のドイツが舞台の小説だが、最初と最後に現在のパートがあって、サンドイッチのように現在が過去を挟み込んでいるような構成になっている。過去のパートは現代に生きている偏屈…

全員“カモ”: 「ズルい人」がはびこるこの世界で、まっとうな思考を身につける方法

ダニエル・シモンズ、クリストファー・チャブリスの全員“カモ”: 「ズルい人」がはびこるこの世界で、まっとうな思考を身につける方法 (原題 NOBODY'S FOOL We Get Taken In and When We Can Do about It)を読んだ。どんな人でも騙される。では、なぜ騙される…

巴里マカロンの謎

米澤穂信氏の巴里マカロンの謎を読んだ。これも小市民シリーズの一作のはずだが、今回はタイトルに季節が入っていない。多分番外編といった感じなのだろうか。本書には「巴里マカロンの謎」、「紐育チーズケーキの謎」、「伯林あげぱんの謎」、「花府シュー…

嘘つきのための辞書

エリー・ウィリアムズの「嘘つきのための辞書」(原題 The Liar's Dictionary)を読んだ。このれはんとも言えない不思議な物語だった。ロンドンが舞台の小説なのだが、現在のパートと19世紀のパートが交互に挟みこまれて物語は進んでいく。二つの物語は同じス…

秋期限定栗きんとん事件

米澤穂信氏の秋期限定栗きんとん事件を読んだ。今回の事件は上・下と2冊に分かれていて、合わせると500ページぐらいになる。だからというわけでもないが、物語の時間も長く、前巻の夏の直後から次の年の秋までと約一年にわたる物語となっている。今回メイン…

先祖探偵

新川帆立氏の先祖探偵を読んだ。主人公は依頼人の先祖調査を専門にしている探偵の邑楽風子。実際にはこのような調査を専門にしている探偵はいないと思うので、著者の創作した職業だろう。先祖を辿るのにまず戸籍の調査から始まるので、実は戸籍探偵ではない…

アリス連続殺人

ギジェルモ・マルティネスのアリス連続殺人 (原題 Los crímenes de Alicia)を読んだ。この小説は、アルゼンチンの作家によるイギリスを舞台にしたミステリーである。ルイス・キャロルの失われた日記のページに関するメモが見つかり、それを見つけた大学生の…

夏期限定トロピカルパフェ事件

米澤穂信氏の夏期限定トロピカルパフェ事件を読んだ。小市民シリーズの2作目で、本作では1冊目から半年以上たち、小鳩と小山内は2年生になっていて、夏休み直前というところから物語は始まる。夏休みが始まった初日に小山内は小鳩の家を訪れ、この町にあるお…

平氏―公家の盛衰、武家の興亡

倉本一宏先生の平氏―公家の盛衰、武家の興亡を読んだ。本書には平氏の誕生の経緯から平清盛一族滅亡後の平氏についてまで詳細に書かれている。平清盛一族が滅亡しても、公家の平氏の一部は都で生き残り、明治の代まで続いていた。 平氏の誕生 桓武天皇の第三…

春期限定いちごタルト事件

米澤穂信氏の春期限定いちごタルト事件を読んだ。本作はいわゆる小市民シリーズと言われているもので、小鳩常悟朗と小山内ゆきが主人公の日常のミステリだ。物語は彼らがちょうど船戸高校に入学した時から始まる。この二人は恋人ではなく、互恵関係で結ばれ…

Science Fictions あなたが知らない科学の真実

スチュアート・リッチーの Science Fictions あなたが知らない科学の真実 (原題 Science Fictions: Exploring Fraud, Blas, Negligence and Hypes in Science)を読んだ。 脳はあり合わせの材料から生まれた - 隠居日録にも書いたが、多くの心理学論文には提…

兇人邸の殺人

今村昌弘氏の兇人邸の殺人を読んだ。本書は屍人荘の殺人から続く葉村・剣崎コンビシリーズの3作目の作品だ。今回も因縁の班目機関の残党との事件に巻き込まれるというか殴りこんでいくというような作品。一旦潰れたテーマパークが“生ける廃墟"として復活し人…

恐るべき緑

ベンハミン・ラバトゥッツの恐るべき緑 (原題 UN VERDOR TERRIBLE)を読んだ。この小説は何とも表現していいかよくわからない小説だ。ただ一つ、最初に書いておく。これは小説で、この本の中の物語は虚構だということだ。最初の「プルシアン・ブルー」を読む…

魔眼の匣の殺人

今村昌弘氏の魔眼の匣の殺人を読んだ。これは屍人荘の殺人の続編。前回の事件を生き延びた葉村譲はミステリ愛好会の会長になり、剣崎比留子はミステリ愛好会の会員になっていた。剣崎は前回のテロを起こした班目機関に関して調べていると、W県のI郡に真雁地…

ストーンヘンジ ――巨石文化の歴史と謎

山田英春氏のストーンヘンジ ――巨石文化の歴史と謎を読んだ。ストーンヘンジはイギリスのウェールズのソールズベリーにある遺跡で、何とも不思議な存在だ。私は1997年の7月に訪れたことがある。本書によると、現在一般の見学者は遺跡内に入れず、離れた見学…

屍人荘の殺人

今村昌弘氏の屍人荘の殺人を読んだ。「でぃすぺる」を読んで、今更ながらデビュー作にも興味を持ったので、この本も読んでみた。出版された直後かなり話題になっていたのは憶えているが、ミステリーということ以外は全く内容に関しては知らないで読み始めた…

ヤバい統計 政府、政治家、世論はなぜ数字に騙されるのか

ジョージナ・スタージのヤバい統計 政府、政治家、世論はなぜ数字に騙されるのか (原題 BAD DATA How Governments, Politicians and Rest of Us Get Misled by Numbers)を読んだ。著者はイギリスの統計学者で、英国議会の下院図書館所属で、公共政策のための…

タタール人の砂漠

ブッツァーティのタタール人の砂漠を読んだ。例によって、読もうと思ってから、実際に読み始めるまで時間が開き過ぎていて、なぜこの本を読もうと思ったのか今となっては明確ではないが、内容紹介にある「幻想的な作風でカフカの再来と称される」とか「二十…

夜露がたり

砂原浩太朗氏の夜露がたりを読んだ。これは時代小説の短編集で、全体的にほろ苦い、あるいは純粋に苦い作品が多くて、最後の「妾の子」だけがなんとなくいい話風に終わっている。250ページぐらいの本に8編収録されているので、一編辺り30ページちょっとぐら…

宮廷女性の戦国史

神田裕理氏の宮廷女性の戦国史を読んだ。本書はだいたい室町期から江戸時代にはいる辺りまでの時代の宮廷に出仕していた女性に関する本(彼女らの身分とか役割など)なのだが、最初のプロローグにかなり衝撃的なことが書かれている。それは14世紀の南北朝から1…

ヴィオラ母さん 私を育てた破天荒な母・リョウコ

ヤマザキマリ氏のヴィオラ母さん 私を育てた破天荒な母・リョウコを読んだ。ヤマザキマリという名前はテルマエロマエの原作者というとこで知っていたが、詳しいことはよく知らなかった。それが、新型コロナのパンデミック以降、日本から出国できなくなり、そ…

でぃすぺる

今村昌弘氏のでぃすぺるを読んだ。これもある種特殊設定ミステリーだ。この物語の主人公はある地方の奥郷町に住む小学六年生の木島悠介だ。彼は半ば巻き込まれるようにして、この不思議な物語に分け入っていくことになる。事の発端は2学期に掲示係になり、同…

エピジェネティクス入門―三毛猫の模様はどう決まるのか

佐々木裕之氏のエピジェネティクス入門を読んだ。NHK BSでヒューマニエンスという番組を3月まで放送していた。この番組は生命科学に関する内容を扱っていたのだが、その中で2024年3月に猫に関する話題もあった。番組を見てちょっと驚いたのは、三毛猫のクロ…

鬼の筆 戦後最大の脚本家・橋本忍の栄光と挫折

春日太一氏の鬼の筆 戦後最大の脚本家・橋本忍の栄光と挫折を読んだ。橋本忍という脚本家の名前は知っていたが、実は知っていたのは名前といくつかの黒澤作品で脚本を書いていたということだけで、これほど日本映画に深くかかわった人だということは全く知ら…

戦国女刑事

横関大氏の戦国女刑事を読んだ。「警察というのは女社会であり、女尊男卑の風潮が色濃く残っている」と書かれていて、これだけでバカミスだというのが濃厚に漂ってくる。しかも、タイトルが「戦国女刑事」で、登場人物は戦国時代の武将のような名前を持ち、…

化学の授業をはじめます。

ボニー・ガルマスの化学の授業をはじめます。(原題 LESSONS IN CHEMISTRY)を読んだ。どこかの書評で、「テレビの料理番組で調理を化学の授業の様に進める」というような文章を見て、興味を惹かれて読んだ。確かに、本文中にそのような記述は出てくる。その部…