隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

アリス連続殺人

ギジェルモ・マルティネスのアリス連続殺人 (原題 Los crímenes de Alicia)を読んだ。この小説は、アルゼンチンの作家によるイギリスを舞台にしたミステリーである。ルイス・キャロルの失われた日記のページに関するメモが見つかり、それを見つけた大学生のクリステンがひき逃げ事故にあった。幸いなことに彼女は一命をとりとめていたが、彼女の指導教官でもあったセルダム教授は、このひき逃げ事件は彼女が発見したメモに関わることであり、ルイス・キャロルに関して研究している有志の団体であるルイス・キャロル同胞団にも何らかの関係があると睨んだ。そして事件はまだ終わっていないとも。

この小説の出だしの所は非常に読みにくかった。何というか説明が非常にまどろっこしく、本作の主人公である「私」がいったい何を研究しているのか、読んでいてさっぱりイメージがつかめなかった。更に45ページ辺りに文字をスキャンして、それをもとに手書き文字を再現していると思われるような記述があるが、実際に何が行われているかは何度読み返してもよくもわからなかった。巻末の解説によると、「手書き文字の断片から、実際に文字を書いた時の腕と筆の動きを再現するプログラム」らしい。しかし、再現できたとして、それでなぜ文字を書いた人物が特定できるのかがよくわからなかった。しかし、この部分は本作の筋には大して重要ではなく、意味が分からなくても全く問題なかった。

もう一つ付け加えると、物語を読んでいる途中で、解説を読んでしまい、「連続殺人の論理」という概念があることを初めて知った。そうすると、原題がLos crímenes de Aliciaで、日本語にすると「アリスの犯罪」となっているのは非常にフェアーで、日本語のタイトルはどうなのだろうと考えだした。この時点ではまだ読み終わっていないので、安吾不連続殺人事件のような展開なのだろうかと想像したのだが、それとは違っていた。それとは違った不連続殺人事件で、観測により連続性を仮想した殺人事件だった。クリステンが起点になって起きた事件ではあるが、予想もしなかった第三者の介入によって事件が全然別な物に変わってってしまった。それが連続殺人を生み出してしまったともいえる。こういう結末になるとは想像していなかった。