隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

読書

「意思決定」の科学 なぜ、それを選ぶのか

川越敏司氏の「意思決定」の科学 なぜ、それを選ぶのかを読んだ。本書はジョン・フォン・ノイマンとオスカー・モルゲンシュタインの「ゲームの理論と経済行動」から発展した意思決定理論に関して平易に解説した本である。何かを選択するときに、合理的に(あ…

紫式部と藤原道長

倉本一宏先生の紫式部と藤原道長を読んだ。2024年のNHK大河ドラマは紫式部が主人公なので、その関連本の一つだろう。倉本先生はドラマの時代考証もしている。本書はタイトルが紫式部と藤原道長で、二人は同時代の人だが、一体いつどのように出会ったのかが不…

Q

呉勝浩氏のQを読んだ。ミステリーだと勝手に思って読み始めたのだが、ミステリーではなかった。では、どのようなジャンルの小説かというと一言では言い表せない。ロク、ハチ、キュウという血のつながらない姉妹弟がストーリーの中心だ。彼らの父親の町谷重和…

アメリカは内戦に向かうのか

バーバラ・F・ウォルターのアメリカは内戦に向かうのか (原題 HOW CIVIL WARS START AND HOW TO STOP THEM)を読んだ。日本語のタイトルよりは英語の原題の方がこの本の内容をよく表していると思う。どんな状況になったら内戦が起きやすいのかということをま…

なぜ世界はそう見えるのか:主観と知覚の科学

デニス・プロフィット、ドレイク・ベアーのなぜ世界はそう見えるのか:主観と知覚の科学 (原題 PERCEPTION HOW OUR BODIES SHAPE OUR MINDS)を読んだ。「人は見たいものを見る」と言われるけれど、この本を読むと「人は見たいように見る」というのがより適切…

奏で手のヌフレツン

酉島伝法氏の奏で手のヌフレツンを読んだ。ちょっと形容しがたい作品だ。我々とは似て非なる世界が舞台のSFなのだが、単に世界というより違う宇宙の物語ととらえた方がいいのかもしれない。我々が知っているような原理はこの宇宙には適応できないような気が…

素敵な圧迫

呉勝浩氏の素敵な圧迫を読んだ。この本は短編集で、「素敵な圧迫」、「ミリオンダラー・レイン」、「論リー・チャップリン」、「パノラマ・マシン」、「ダニエル・《ハングマン》・ジャービスの処刑について」、「Vに奉げる行進」の6編が収められている。全…

父がしたこと

青山文平氏の父がしたことを読んだ。タイトルが「父がしたこと」なので、物語の重要なポイントで父が何かをしたのだろうというのは想像がついたのだが、それが過去に行ったことなのか、それとも物語が進行する中で起きることなのか、全くわからない状況で最…

植物の形には意味がある

園池公毅氏の植物の形には意味があるを読んだ。この本はタイトルそのままで、植物の形態がなぜそのようになっているのかを思考実験で考えてみようという本だ。 葉が平らで、表が緑、裏が白い理由 植物の葉というのは大体平らで、表は濃い緑色、裏はうっすら…

都筑道夫創訳ミステリ集成

都筑道夫氏の都筑道夫創訳ミステリ集成を読んだ。「創訳」という聞きなれない言葉がタイトルに入っているが、一昔前(すでに二昔ぐらい前か?)なら超訳とい言葉が使われていたことを覚えている人もいるだろう。この本に収録されているのは児童向けに翻訳した…

反知性主義

森本あんり氏の反知性主義を読んだ。「反知性主義」という言葉自体はいつの頃からか目にしたり、耳にしたりすることがあった。その意味するところも、この言葉から科学的な知識や知見に反した行動や言動することを指すのだろうと漠然と思っていた。なぜその…

あなたには、殺せません

石持浅海氏のあなたには、殺せませんを読んだ。本作は短編連作倒叙ミステリーで、犯罪予備者の駆け込み寺とうわさされるNPOが舞台になっている。そこの1番の相談室は殺人を考えてる犯罪予備者に割り当てられていて、相談員が誰をなぜ殺したいのかを聞く。そ…

九月と七月の姉妹

デイジー・ジョンソンの九月と七月の姉妹(原題 Sisters)を読んだ。姉は9月に生まれたのでセプテンバーと呼ばれ、妹は10か月後の7月に生まれたのでジュライと呼ばれた。姉は我が強く、妹を支配して、従属させていた。妹は内気で、姉の支配を受け入れていた。…

地雷グリコ

青崎有吾氏の地雷グリコを読んだ。このタイトルからはどんな内容化想像するのはちょっと難しいと思う。女子高生の射守矢いもりや真兎まとは見た目は脱力系・無気力系なのだが、滅法ゲームに強い。そのゲームも単純に運が作用するようなゲームではなく、確実…

ちぎれた鎖と光の切れ端

荒木あかね氏のちぎれた鎖と光の切れ端を読んだ。本書は二部構成になっていて、第一部は倒叙的な記述になっており、友人グループで孤島のコテージに宿泊するメンバーの中に、仲間を殺そうとしている男が紛れ込んでいるというストーリーになっている。その男…

夜に星を放つ

窪美澄氏の夜に星を放つを読んだ。星に関係する小説だと思ったので読んだのだが、直接的には星には関係なく、各話に星にまつわることが織り込まれている短編集だった。収録されているのは「真夜中のアボカド」、「銀紙色のアンタレス」、「真珠星スピカ」、…

呪いを解く者

フランシス・ハーディングの呪いを解く者 (原題 UNRAVELLER)を読んだ。この物語はラディスという架空の国が舞台のファンタジーだ。ラディスには<原野ワイルズ>と呼ばれる霧に包まれた森が隣接しており、そこには不思議な力を持つ生き物が暮らしている。特…

家康の誤算 「神君の仕組み」の創造と崩壊

磯田道史先生の家康の誤算 「神君の仕組み」の創造と崩壊を読んだ。本書は250年以上続いた徳川政権がなぜ滅びたのかを、徳川家康がどのように滅びないように仕掛けをしたかを説明しながら、解説した本だ。そして、徳川幕府崩壊後の明治についても、何が変わ…

『源氏物語』の時間表現

吉海直人氏の『源氏物語』の時間表現を読んだ。この本の内容は序章からかなり衝撃的だった。何が衝撃的だったかというと、平安時代は時間的な日付変更が午前三時に起きていたということだ。つまり、午前3時を超えた時点で、新しい一日が始まるというのだ。こ…

不実在探偵の推理

井上悠宇氏の不実在探偵の推理を読んだ。これを最初に読んだときは、この小説も特殊設定もののミステリーだと思った。この小説の特徴はタイトルにもある通り、探偵が不実在なのだ。どいう事かというと、大学生の菊理現が黒い箱の中にあるダイスを見て、質問…

無限の月

須藤古都離氏の無限の月を読んだ。1の「満月」と2の「新月」を読んでも、話がどういうところに進んでいくのか全然見えなかった。「満月」は中国のどこかの田舎の話で、ヨーロッパから来たカメラマンを案内する中国人が最後の所でパソコンに表示される「助け…

ロバのスーコと旅をする

高田晃太郎氏のロバのスーコと旅をするを読んだ。何とも不思議な旅行記だった。どう考えても、ロバと徒歩で旅をしたいがために旅に出たような感じがする。最初は、今回が初めてのロバとの旅なのかと思ったら、実は既にロバと旅をしたことがあり、どうしても…

時計泥棒と悪人たち

夕木春央氏の時計泥棒と悪人たちを読んだ。この本は長編小説だろうと思っていたのだが、実は連作短編小説だった。タイトルにある時計泥棒の2人組が色々な謎を解くストリーになっている。収録作品は「加右衛門氏の美術館」、「悪人一家の密室」、「誘拐と大雪…

アリアドネの声

井上真偽氏のアリアドネの声を読んだ。今まで読んだ作品はミステリーばかりだったが、この作品はミステリーではなかった。障碍者支援を前面に押し出したジオフロント都市「WANOKUNI」で、巨大地震が発生した。運が悪いことに都市地下にある地下鉄に一人の女…

可燃物

米澤穂信氏の可燃物を読んだ。本書は群馬県警の捜査一課葛警部が主人公の連作短編ミステリーだ。収録作は「崖の下」、「ねむけ」、「命の恩」、「可燃物」、「本物か」の5編。葛が部下の集めてきた情報をもとに事件を組み立てるのだが、何か引っかかりを覚え…

未来から来た男 ジョン・フォン・ノイマン

アナニヨ・バッタチャリヤの未来から来た男 ジョン・フォン・ノイマン (原題 THE MAN FROM THE FUTURE The Visionary Life of John von Neumann)を読んだ。フォン・ノイマンと言われて真っ先に思い出すのはノイマン型コンピュータで、未だに我々はこのアーキ…

動くはずのない死体

森川智喜氏の動くはずのない死体を読んだ。これは短編ミステリーで、「幸せという小鳥たち、希望という鳴き声」、「フーダニット・リセプション 名探偵粍島桁郎、虫に食われる」、「動くはずのない死体」、「悪運が来りて笛を吹く」、「ロックトルーム・ブギ…

小田雅久仁氏の禍を読んだ。この本は短編集なのだが、収録されている作品は何とも言えない不思議な感じの小説だ。ホラーとはちょっと違うし、幻想小説とか怪奇小説の範疇に入る作品群だろう。収録されているのは「書食」、「耳もぐり」、「爽色記」、「柔ら…

幽玄F

佐藤究氏の幽玄Fを読んだ。今までの作品とは全然テイストが違う作品だった。前作のテスカトリポカの血腥い小説から比べると爽やかな小説だ。この小説は三島由紀夫の豊饒の海に触発されて書かれたという事なのだが、私は豊饒の海だけでなく、一切の三島由紀夫…

27000冊ガーデン

大崎梢氏の27000冊ガーデンを読んだ。本書は高校の学校司書を主人公にした日常のミステリだ。27000冊というのは大体高校の図書室(本書の中では一貫して図書館と呼んでいるが、独立した建物ではないので図書館と呼ぶのはちょっと奇妙に感じた)にある本の冊数…