読書
岩井圭也氏のわれは熊楠を読んだ。タイトルからわかるように、本書は南方熊楠について書かれた小説だ。巻末に主要参考文献の一覧があり、かなり調べて書いたことが想像されるので、実際に近い内容なのだと思う。だが、頭の中で複数の人物の言葉が聞こえると…
アンソニー・マクカーテンのゴーイング・ゼロ (原題 GOING ZERO)を読んだ。CIAと巨大IT企業のワールド・シェアが作り上げた犯罪者追跡システム「フュージョンイニシャティブ」を実用化するためにベータテストを開始した。参加者がシステムの追跡から1カ月間…
朝比奈秋氏のサンショウウオの四十九日を読んだ。NHKラジオ第一の高橋源一郎の飛ぶ教室に著者自身がゲスト出演していて、その時この小説も紹介されていた。設定があまりにも突飛だったので、興味を持って読んでみた。ページ数も150ページ無いぐらいの長さな…
辻堂ゆめ氏のダブルマザーを読んだ。誰かが電車に飛び込んだようなプロローグ的な断片が最初に書かれている。そして始まる第一章のサブタイトルは「母ふたり娘ひとり」となっている。このミステリーは母親がいて娘が列車事故で亡くなったのだが、どうやら娘…
伊与原新氏の藍を継ぐ海を読んだ。何かの書評で科学的な見地を巧みにストーリーに織り込んでいるというようなことを読んで、興味を持ったので読んでみた。本書は短編集で「夢化けの島」、「狼犬ダイヤリー」、「祈りの破片」、「星隕つ駅逓」、「愛を継ぐ海…
秦新二氏、竹之下誠一氏の田沼意次 百年早い開国計画 海外文書から浮上する新事実を読んだ。本書のプロローグを読み始めて、これはとんでもない本を手にしてしまったと思った。それでも、なんとか最後まで読んだのだが、この本の内容をどのように評価してよ…
筒井康隆氏のモナドの領域を読んだ。先日NHK BSで筒井氏のドキュメンタリーを放送していたので視聴した。もう90歳になっているのに、未だに小説を書き続けているのはすごいことだと思った。思い返してみると、筒井氏の小説は数えるほどしか読んでいない。七…
トーマス・オーリックの中国経済の謎―なぜバブルは弾けないのか? (原題 CHINA: The Bubble that Never Pops) を読んだ。タイトルに「なぜooはxxなのか?」とついているような本は明確にそのなぜに答えることがあまりない印象を受けている。しかも、この本の…
マイケル・ホーニグのウラジーミルPの老年時代 (原題 The Senility of Vladimir P) を読んだ。タイトルにあるウラジミールはあの有名な大統領のウラジミールだ。この本を読む前は、独裁者は死ぬまで独裁者だと思っていた。だが、近年は寿命が延びてきている…
間宮改衣氏のここはすべての夜明けまえを読んだ。本作は第11 回ハヤカワSF コンテスト特別賞を受賞した作品だ。ページ数が120ページぐらいしかなく、通常ならば短編集の中の一作という感じで出版されるぐらいのボリュームだと思うのだが、敢えてこの小説一作…
砂原浩太朗氏の浅草寺子屋よろず暦を読んだ。本書はタイトルにあるように浅草寺内の正顕院に間借りして寺子屋を開いている大滝信吾が主人公の時代小説だ。浅草一帯を縄張りとする狸穴の閑右衛門とかかわりを持ってしまい、あれやこれやと嫌がらせを信吾の周…
今村昌弘氏の明智恭介の奔走を読んだ。タイトルから想像がつくように、本書はあの神紅大学のミステリ愛好会の初代会長の明智恭介を主人公にした短編ミステリだ。彼は屍人荘の殺人であえなく退場している。コンビを組んでいた助手の葉村とは4カ月ぐらいしか行…
白井智之氏のぼくは化け物きみは怪物を読んだ。本書は特殊設定・多重解決物のミステリー短編集だ。収録作品は「最初の事件」、「大きな手の悪魔」、「奈々子の中で死んだ男」、「モーティアンの手首」、「天使と怪物」の5編。この中で「大きな手の悪魔」は他…
野嶋剛氏の新中国論: 台湾・香港と習近平体制を読んだ。本書が出版されたのが2022年の5月で、それからすでに2年経過しているので、必ずしも最新の状況を本書から得られるわけではないが、21世紀に入ってからの動きを追う分には特に問題ないだろう。「香港の…
円城塔氏のコード・ブッダ 機械仏教史縁起を読んだ。設定からするとバカSFの一種なのだろうが、作者は真面目に機械に仏教は宿ったという出だしから、情報理論、プログラミング、宗教特に仏教の似ている所を無理やりこじつけて話を進めていく。これだけだと全…
岩井圭也氏の科捜研の砦を読んだ。これは最後の鑑定人 - 隠居日録の2作目だが、時間軸が巻き戻って主人公の土門誠はまだ警視庁に勤務している頃の物語になっている。収録作品は「罪の花」、「路側帯の亡霊」、「見えない毒」、「神は殺さない」の4編。本作の…
誉田哲也氏の首木の民を読んだ。この著者の本はこれが初めてなので、ほかにどのようなものを書いているか全くわからない。ちょっと話題になっているようだったので、読んでみたのだが、結構面白かった。小説の出だしが、高校生の娘に邪険にされる父親の場面…
桜庭一樹氏の名探偵の有害性を読んだ。タイトルが面白いと思ったのだが、内容がシリアス目なのか、ユーモア的なのかわからずに読み始めた。テイストとしては後者であろう。今から30年ぐらい前から約10年ぐらいの間、名探偵の黄金時代が日本にあった。難事件…
ピーター・パーソンズのパピルスが語る古代都市: ローマ支配下エジプトのギリシア人 (原題 CITY OF THE SHARP-NOSED FISH)を読んだ。以前西洋美術とレイシズム - 隠居日録を読んだときに「おなじみのエジプトの女王クレオパトラがその代表で、(略)、殆どの場…
ミステリー小説集 脱出を読んだ。「ミステリー」とついているが、これは広義の意味でのことで、最初の「屋上からの脱出」は日常のミステリーだが、それ以外はミステリアスな展開で物語が進み、最後に謎が明かされるという感じのミステリーだった。これは脱出…
杉井光氏の世界でいちばん透きとおった物語を読んだ。大御所のミステリー作家の宮内彰吾が亡くなり、「世界でいちばん透きとおった物語」というタイトルの遺稿がどこかにあると宮内の長男から探査の依頼を受けた。その依頼を受けた藤阪燈真は宮内の愛人の子…
木内昇氏の惣十郎浮世始末を読んだ。この小説は色々なものがてんこ盛りで、長いけれど、スラスラ読めた。主人公は北町奉行所の定町廻り同心服部惣十郎で、物語は藪入りの日の浅草の興済堂という薬種問屋の火事の場面から始まる。火が消えた後には死体が二つ…
高瀬乃一氏の春のとなりを読んだ。本書の序では隠居した医者の長浜文二郎が、かって奉公していた女中が病に臥せっているということで、薬を届けに桑井集落を訪ねるところから始まる。子供が行方不明になっているということで、文二郎も探索に加わり、子供は…
コーマック・マッカーシーのノー・カントリー・フォー・オールド・メン (原題 NO COUNTRY FOR OLD MEN)を読んだ。作家の佐藤究氏が絶賛しており、多大な影響を受けたとどこかでこの本を紹介していたので、読んでみた。この本の解説も佐藤氏が書かれているの…
細田昌志氏の力道山未亡人を読んだ。力道山は昭和の超有名プロレスラーだが、その力道山に未亡人がいたということは全然知らなかった。力道山の息子二人がプロレスラーをしていたのは知っていたので、配偶者がいたとしても何の不思議はないのだが、全然その…
川瀬七緒氏の詐欺師と詐欺師を読んだ。「詐欺師 x 復讐 x バラバラ死体」といったような物語。大がかりな信用詐欺で大金を稼いだ後に日本で骨休みをしていた伏見藍がたまたま巡り合ったのが上条みちる。彼女は両親の仇として超大企業の戸賀崎グループの元社…
陸秋槎氏の喪服の似合う少女 (原題 非悼)を読んだ。喪服と言えば未亡人のような気がするので、日本語のタイトルはちょっと不思議な気がしたが、原題は似ても似つかない「悲悼」になっていて、何となくこちらの方が良いような気がした。悲悼は日本語にもある…
エリン・フラナガンの鹿狩りの季節 (原題 DEER SEASON)を読んだ。鹿狩りの季節であるクリスマス直前に女子高生ペギーが行方不明になった。当初は家出だとみんな思い込もうとしていたのだが、2日たっても、3日たっても、音沙汰がない。ペギーが失踪したと同じ…
モアメド・ムブガル・サールの人類の深奥に秘められた記憶 (原題 La plus secréte mémorire des hommes) を読んだ。何とも不思議な小説だった。かってT・C・エリマンという名前のセネガル出身の作家がいた。1938年「人でなしの迷宮」という本をパリで出版し…
大月康弘氏のヨーロッパ史 拡大と統合の力学を読んだ。タイトルからEU統合への歴史的な経緯について書かれているのかと思っていたのだが、そういう本ではなかった。これは正にヨーロッパの歴史で、古代ローマ時代から散発的にみられる汎ヨーロッパ的な出来事…