隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

惣十郎浮世始末

木内昇氏の惣十郎浮世始末を読んだ。この小説は色々なものがてんこ盛りで、長いけれど、スラスラ読めた。主人公は北町奉行所の定町廻り同心服部惣十郎で、物語は藪入りの日の浅草の興済堂という薬種問屋の火事の場面から始まる。火が消えた後には死体が二つ残されていた。蔵の中に番頭の死体があり、店からは黒焦げになった死体が見つかった。状況からして、店の主と思われるが、黒焦げになっているので、外見から判断することはできない。

黒焦げとなった死体となれば、店の主ではない誰かというのが当然の筋立てになる。実は店の主は生きていて、この火事に関わっているというのは典型的だ。ただそれだけではなく、もう一人火事に関わっている者がいて、その男を追うことが、この小説の最後まで続く謎である。この日一体何があったのか?この男はなぜこんなことをしたのか?色々なことが少しずつ明らかになり、第四章、第五章がこの事件がぐるりと回って物語の中心になる。

この小説の舞台となっているのは天保の頃で、世の中は奢侈禁止令が出されていて、色々窮屈になっている。また、奉行所内では出生争いがあったり、成果が上がらない者には役替えされる恐れがあったりと、今の世の中とあまり変わりないような正に浮世がある。惣十郎以外の人物も色んな事を抱え込んでいてるところも浮世なのか。一見あまり関係ないと思われていた人物が途中からぐうっとクローズアップされる辺りは、うまい筋立てだと思った。実は色々な人間がそれぞれ思惑があって行動していたということが、最後の方でつながる辺りは、読んでいて面白かった。