隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

喪服の似合う少女

陸秋槎氏の喪服の似合う少女 (原題 非悼)を読んだ。喪服と言えば未亡人のような気がするので、日本語のタイトルはちょっと不思議な気がしたが、原題は似ても似つかない「悲悼」になっていて、何となくこちらの方が良いような気がした。悲悼は日本語にもあるようだし。この字の並びからも、何となく意味は想像できるだろう。

今度の小説は1930年代の中国の架空の都市が舞台のハードボイルド小説だ。氏の小説だけあって、主人公は女探偵で、実際にそのような探偵がいたかどうかはよくわからない。劉雅弦という探偵のもとに葛令儀という聖徳蘭女学校の生徒から友人を探してほしいという依頼から物語は始まる。彼女の叔父はその街では有力者で金持ちなので探偵を雇うことも造作もないことだった。最初は人探しだったのだが、それがいつのまにか、誘拐事件になり、なんとか人質も無事解放され事件に決着を見る辺りではまだ、200ページにも至っていない。劉雅弦が見聞きしたことと誘拐されていた岑樹萱の語ることとに齟齬を感じつつも、事件は解決したので、それ以上深入りしなかった。それが雇われ探偵というものだ。だが、事件はこれで終わりではなかったのだ。ここからもう一波乱ある。

ハードボルドの探偵というと男というイメージがあり、女性探偵というの意外にというか、新鮮に感じた。ハードボイルドというと理よりも行動という感じがしていたが、本書でも劉はまず関係者に会って情報を仕入れることから始めている。全体がわからずに行動するので、荒事に巻き込まれることもあるのは、ハードボイルド物の典型だろう。誘拐事件が解決した辺りではまだ200ページぐらいで、この後どうなるのかと思うと、意外な密告があって、事件の別な面が見えてくる。しかし、それも二転三転し、最後まで飽きさせない。ただ一つよくわからなかったのは、岑樹萱がいつこれを決心して、行動したのかという所だろう。