隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

雪が白いとき、かつそのときに限り

陸秋槎氏の雪が白いとき、かつそのときに限り(原題 当且仅当雪是白的)を読んだ。

このミステリーには2つの事件が描かれている。5年前の事件と、そして、今回の事件。これらの事件は中国南部のZ市の高校で、冬の雪の降った真夜中に起きた。事件発生時には雪はもう止んでおり、そして、死体の周りには足跡はなかった。

5年前の事件のあらましはこうだ。女生徒の死体が雪の朝に校内で発見された。現場の周りには足跡がなく、左の脇腹に刺し傷があり、折り畳みナイフが死体のそばで発見された。その折り畳みナイフには死んでいた生徒である唐梨の指紋しかなかったが、その折り畳みナイフの持ち主は校舎に併設された寮のルームメイトである陸英の持ち物で、陸英と他の2名が唐梨をいじめていたことが後に判明した。ところが、事件現場が特殊な場所で、死体は事務棟の裏口のところにあったが、裏口の扉は両方から閂錠がかけられており、裏口の周りの雪には足跡がなかった。警察の捜査の結果、唐梨は状況から自殺と判断されて事件は終了した。陸英はいじめの主犯格として放校処分となった。

それから5年たち、寮で新たないじめが起き、いじめを行っていた呉莞が退寮処分になった。このいじめが5年前の事件を想起させ、生徒会の寮委員の顧千千は過去の事件を調べ始め、生徒会長の馮露葵に相談し、馮露葵は事件の調査にのめりこんでいった。

ネタバレになってしまうが、5年前に起きた事件は警察は自殺として処理しているので、この物語では自殺ではない可能性について言及されるだけで、馮露葵は事件の関係者に会いにも行って調査するのだが、犯人は誰だかは明確にならない。しかし、またしても事件が起きて、こちらの方がメインの事件だろう。2番目の事件も密室状況が作り出されているのだが、どうもそのあたりの描写があまりうまくイメージできなかったのが残念だった。元年春之祭の読後にも感じたが、この作者のストリーは何か切ないものを感じ、それがいい味を出していると思う。前作では王陵葵と小休の関係、今作では馮露葵と顧千千の関係。驚いたのは終章で作者と同名の登場人物が出てきたことだ。更に、訳者あとがきによると、作者と同名の女子高生が登場する短編も書かれているとか。