今村昌弘氏の屍人荘の殺人を読んだ。「でぃすぺる」を読んで、今更ながらデビュー作にも興味を持ったので、この本も読んでみた。出版された直後かなり話題になっていたのは憶えているが、ミステリーということ以外は全く内容に関しては知らないで読み始めた。ただ、「でぃすぺる」が特殊設定ミステリーなので、この作品も多分特殊設定ミステリーなのだろうと想像はしていた。そして、その特殊設定はどのようなものなのか興味深かった。なんせ「でぃすぺる」の特殊設定自体に惑わされたので。単行本が2017年の出版で、もう7年近く経過しているが、特殊設定に関して明らかにしても良いのかどうかちょっと迷ってしまう。巻末の選評を見ると、ほとんど特殊設定に関しては書かれていなくて、辻真先氏が唯一バイオテロと書いているので、そこまでは書いていいのかとは思う。
この作品はバイオテロにより外部と隔絶してしまったペンション内で起きた殺人事件に関するミステリーだ。ある大学のミステリー愛好会からミステリー好きがペンションで行われる映画研究会の合宿に参加するという筋立てが既に舞台装置を作り始めているし、そこに実際に事件を解決したことがある探偵少女も合流することになると必ず事件が起こることは必定だ。しかも、合宿を中止することを求める脅迫状まで映画研究部に送り付けられている。
このバイオテロによって引き起こされた特殊設定を良しとするかどうかで好みがわかれると思うが、よくできたミステリーだと思った。どこまでこの特殊設定が物語に食い込んでいるかどうかの見極めがよくわからなかったので、死因の「噛み殺された」というのはある種比喩的なもので、実際は何かの装置によってそのように見えるようになっているのではないかと考えていたのだが、ここは本当に「噛み殺された」ということだ。そうなるとこれは人に仕業ではないのか?とあらぬ方に考えが及んだが、それではミステリーとしては成り立たない。この辺りをうまく解決しているのだから、この特殊設定は物語にがっちりかみ合っている。
一つ勘違いしていたのは、このたいとるは「しびとそう」と読むのだろうと思っていたのだが、どうやら「しじんそう」のようだ。舞台となったペンションが「紫湛荘」という名称で、「しじんそう」と読むのだから、この本のタイトルもそうなのだろう。