隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

春期限定いちごタルト事件

米澤穂信氏の春期限定いちごタルト事件を読んだ。本作はいわゆる小市民シリーズと言われているもので、小鳩常悟朗と小山内ゆきが主人公の日常のミステリだ。物語は彼らがちょうど船戸高校に入学した時から始まる。この二人は恋人ではなく、互恵関係で結ばれている。一方が窮地に陥ったら、逃げる手助けをするというのが彼らの約束だ。小鳩は実際のところ謎を解くのが好きなのだが、謎を解いたことで、周囲からの反応で不快な思いをしてから、目立たないように、ひっそりと、小市民のように生活することを心に誓っていた。小山内も何かあるようなのだが、それはまだ最初の方では明確には書かれていない。

だが、高校に入学して、結局小鳩は謎を解くのを避けられない状況になっていく。本書にはプロローグ・エピローグの他に、「羊の着ぐるみ」、「For your eyes only」、「おいしいココアの作り方」、「はらふくるるわざ」、「孤狼の心」の5編が収録されている。それぞれのストーリは独立しているが、2話目で春期限定いちごタルトを買いに行った小山内の自転車が盗まれ、それが最後の「孤狼の心」につながるようになっている。本書のタイトルになっている「春期限定いちごタルト事件」とは自転車盗難事件のことだ。

今となっては携帯電話の辺りこのとはちょっと古く感じるがそれは仕方がないことだろう。なんせ20年前の作品なのだから。全体的にライトな感じのミステリーで気軽に読めるところが本書の特徴だ。本書を読む前は「小市民とは何の事だろう?」と思ってしまった。小鳩は「謎を解きたいけれど、解いても碌なことがないから解くのはやめよう」と思ったのだが、結局謎を解いてしまっている。今後積極的に小市民を脱して謎を解いていくのか、それとも小市民たらんとするのか。本シリーズは春夏秋冬ともう一冊あるので、二人がどう変わっていくのかも楽しみだ。