隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

可燃物

米澤穂信氏の可燃物を読んだ。本書は群馬県警の捜査一課葛警部が主人公の連作短編ミステリーだ。収録作は「崖の下」、「ねむけ」、「命の恩」、「可燃物」、「本物か」の5編。葛が部下の集めてきた情報をもとに事件を組み立てるのだが、何か引っかかりを覚える。その点を精査していくと思わぬものが見えてくるという構成になっているのが本作の特徴だ。

「崖の下」はバックカントリースキーで遭難した2人の男が、一人は死亡、もう一人は重体で発見される。状況からは生き残った方がもう一人を殺したようだが、凶器が見つからない。「ねむけ」は強盗傷害致傷事件の重要参考人が交通事故を起こした。目撃者4人が重要参考人が赤信号で交差点に進入して事故が起きたというが、その証言に引っかかりを覚える。「命の恩」は榛名山山ろくでバラバラ死体が発見される。捜索の結果ほとんどの部位は見つかり、歯型から被害者が特定される。なぜバラバラ死体にしたのか。「可燃物」はコミ捨て場のゴミが放火される事件が多数発生した。なぜゴミ捨て場のゴミに放火したのか。「本物か」はファミリーレストランで立てこもり事件が発生した。レストランの中には犯人と思しき男、店長、女性従業員、犯人の息子がいることがわかり、犯人はピストル状のものを所持していた。それは本物なのか。

どの作品もうまく作られていると思った。「崖の下」は意外なところから凶器が出てくる。「ねむけ」は証言者の証言がみな一致するのはおかしいというところから真相に迫るのも面白いと思った。人の記憶などそんなに正確ではないはずだ。「命の恩」はなぜバラバラ死体にしたのかの理由も理に適っている。「可燃物」は動機の面白さがある。「本物か」はあまり書くとネタバレになるので書かないが、見えている者が真実ではないという典型的はストーリーかもしれない。どの話も非常に面白かった。